私の指は、タ行で止まった。じっと見つめているのは 「でも突然じゃ・・・きっと迷惑だよね」 ディーノさんが今日本にいることは知ってる。でもいつも忙しそうにしているから、そんな気軽に誘えないよなあ、とも思う。 「・・・日本食、食べたいって言ってたよなあ」 しかも、「私」おすすめのがいいって、ディーノさん言ってた。やっぱりダメもとで誘ってみようかな。今度、いつ日本に来るかも分からないし。 「電話のがいいかな。メールだと返ってこないかもしれないし」 ふう、と深く息を吐いて、私は通話ボタンを押した。いつもだったらかけるまでにもっと時間がかかるところだけど、空腹の後押しがあったからすんなり親指が動いた。女の子としてはどうなのかな、コレ。 3コール目が鳴り終わったところで、ディーノさんの声が聞こえた。 『?』 「あ、ディーノさんこんにちは。今大丈夫ですか?」 『ああ、今から休憩だからな。どうした?』 ちょっと心配そうな声色で、ディーノさんは言った。きっと私の身に何か起こったんだと思ってるんだろう。私は一般人だし、そんなに事件に巻き込まれたりもしないんだけど。私はつい笑ってしまった。 『あれ、俺何か面白いこと言った?』 「いえ、何でもないです。それよりディーノさん、お昼ご飯はどうするんですか?」 『ロマーリオ達とどっかに行く予定だけど』 まあそうだろうな、と私は思った。ていうかそうじゃないと危険だから、そうしてほしいとも思った。ロマーリオさんがいないときのディーノさんて、何しでかすか分からないもんなあ。 『?』 「あ、はい!」 『何か様子がおかしいけど・・・もしかして腹減ってるのか?』 「え!」 ディーノさんは実は鈍感だ。マフィアのボスだっていうのに、女心にはものすごく疎い。そこがいいとこなんだけど、女の子に対して腹減ってんのかっていうのはさすがにひどいと思う。 見えないのをいいことに、私は頬を膨らました。 「ディーノさん、女の子にそんなこと言ったらだめです」 『え?違ったのか?』 「違いますよーだ」 ディーノさんのばか、なんてぶーぶー言っていると、彼は電話の向こうでおかしそうに笑った。 『悪かったよ』 「いいですよ、どうせ食いしん坊キャラです」 『だからそういうつもりじゃないって。プランツォごちそうするから、機嫌直せよ』 「プランツォ?」 『昼飯のこと。今から迎えに行くから、準備して待ってろよ』 「え?ディーノさん!」 どうして、と聞き終わる前に、ディーノさんは電話を切ってしまった。お昼ご飯を一緒に食べれることになったのは嬉しいけど、唐突すぎて頭がちゃんとついていかない。 「て、ていうかもっと可愛い服着ないと!」 部屋着では無いとはいえ、さすがに適当すぎるコーディネートに気付いた私は、慌ててクローゼットに向かった。ディーノさんは何着てても可愛いって言ってくれるけど(さすがイタリア人!)、ロマーリオさんが案外毒舌なのだ。あの人、本当に容赦がない。 「あー、嬉しいけど複雑!」 着替え終わったら髪もどうにかしなきゃ、と、服という服を引っ張り出しながら私は思った。 RICOPRA --- ディーノノーマルEND |