「違わなくはないですけど、すごく食いしん坊みたいじゃないですか」
『そうは思わないけどなー。それに、食いしん坊でもいいと思うけど』
「いやですよ!なんか可愛くないもん」

 ディーノさんがよくても、私がいやなんだ。彼の前では出来るだけ可愛い私でいたいって思うから。でもそんなことなんかさっぱり分かってくれないディーノさんは、不思議そうに言う。

『食いしん坊でもそうじゃなくても、は可愛いだろ?』
「えっ!」

 ・・・やっぱりディーノさんは、女心が分かってない。嬉しくないわけなんて無いけど、こんなの突然言われちゃったら、どきどきして何も言えなくなっちゃうよ・・・。
 私が受話器を持ったまま困っていると、ディーノさんの笑い声が聞こえた。

、照れてんのか?』
「なっ、もしかして冗談で言ったんですか!?」
『そういうわけじゃねーって。ちょっと待ってろ』

 ディーノさんは唐突に言った。待ってろってどういうことですか、と聞いても反応がないから、多分向こうで誰かと話してるんだろう。ディーノさんは、忙しい人だもんね、と今さらながらに思う。一緒にご飯を食べたいなんて、そんなことを考えた時点でもう迷惑になっちゃうんだ。

 ふいにディーノさんとの距離を感じて、私は切なくなった。どんなに思っても、届かない人なんだって改めて感じてしまったのだ。分かってたと思ってたのに。



 ため息をつこうとした瞬間、玄関のチャイムが鳴った。聞こえていないと思いながらも、ディーノさんにそれを伝えると、私は急いで玄関に向かった。

「どちらさまですかー・・・って、え!?」
「よう、待たせて悪かったな」

 玄関のドアを開けると、笑顔のディーノさんが立っていた。私が出てきたのを見ると、ディーノさんは電話を切った。私もとりあえず電源ボタンを一度押した。

「ど、どうしたんですか!」
「ん?迎えに来たんだけど、早すぎたか?」
「迎えに来たって?」
とプランツォ食おうと思って」

 プランツォってなんだろう、と思ったけど、そんなことはどうでもいい。問題は、どうしてそういう話になっているのかということだ。そういうつもりで電話したのは確かだけど、結局私からは誘えていないはずだ。ということは、ディーノさんが自発的に来てくれたってこと?

「な、なんで!ロマーリオさん達とどっか行くって・・・」
と電話してたら、気が変わってさ。日本食連れてってもらうって約束もしてたし」
「覚えてたんだ・・・」

 嬉しすぎて、顔がかーっと熱くなった。ディーノさんは、きっと忘れちゃってると思ってた。私が言えば思い出してくれるだろうけど、こうやって言いだしてくれるだなんて思ってもみなかったのだ。

との約束だぞ?忘れねーって」
「・・・ありがとうございます」

 小さい声で呟く。聞きとれなかったディーノさんに聞き返されたが、もう言ってやらないことにした。

 着替えてきますね、と出来るだけぶっきらぼうに言うと、私はディーノさんに背を向けた。どんな格好しよう、今着てるのも部屋着ってわけじゃないけど、ちょっと地味すぎるし。私は部屋に向かいながら、クローゼットの中を思い浮かべた。

!」
「なんですかー?」
「可愛い服着てこいよ。デートなんだから」
「・・・へ?」

 ディーノさんの言葉の意味が一瞬理解できなくて、私は固まった。え、今、デートって言った?・・・聞き間違いじゃないよね?

なら何着ても可愛いけど、俺はワンピースとか・・・」
「しっ、知りません!」

 ちょっとずれた返事をしながら、私は慌てて部屋に逃げ込んだ。い、イタリア人おそるべし・・・!あんな恥ずかしいこと、普通は言えないよ!

 私は真っ赤な顔のまま、バタンとクローゼットを開けた。すぐ目の前には、お気に入りの花柄のワンピースがある。私は、それを着るべきか着ないべきかということについて、しばらく考えるはめになってしまった。








RICOPRA


--- ディーノHAPPYEND



ありがとうございました! // 拍手