いつもの私なら間違いなく2度寝をするところだが、徐々に暖まってきた部屋でこれ以上寝るのは無理そうだ。エアコンをつけるほど、どうしても寝たいってわけでもない。 「・・・ちょっと出かけてみようかな」 外は暑いに決まってるし、日差しは私の腕を攻撃してくるだろうけど、なんとなくあの青空の下に行きたい気がした。案外いい思いつきかもしれないと私は思った。今日は暇になっちゃったし、散歩がしたい衝動なんて、きっとこれからしばらく起きないだろうから。 「 とりあえず当てもなく歩いていると、前方に見知った姿を見つけた。・・・うきうきした休みの日には、出来るだけ会いたくない相手だ。私は声を出してしまったことに後悔しながら、慌てて避難場所を探した。が、すでに遅かった。 「・・・じゃねーか」 まるで獲物を見つけたかのようににやっと笑うと、私の恐ろしい幼馴染 高杉晋助がこちらにやってきた。 「し、晋助」 普段は、夜行性なんじゃないかと疑うくらい日中姿を見せないのに、なんで今日に限ってこんな悠々と道を歩いているんだろう。私に対する嫌がらせなんだろうか。ていうかもしかして私の部屋、盗聴されてる?そんな不安が体中を駆け巡るほど、私はびっくりした。 「何だよ」 「え?あ、いや、昼間に晋助が外にいるなんて珍しいなあと・・・」 「あー・・・まあ、そうか」 晋助は納得したのか、空を見上げた。これで眼帯なんかしてなくて、赤い服を着ていなければ、結構爽やかなイケメンなんじゃないのかなあ、と私は思った。あ、あと性格がよければ! 「どっか行くの?」 「母親のパシリ」 「・・・え、意外」 人のことをパシるならまだしも、自分から進んでそんなことするタイプだとは知らなかった。ていうか自分でもそういうこと出来るなら、いい加減私を使うのをやめてほしい(私も彼のパシリ要員なのだ)。そしたら、晋助のこと恐ろしいとも、ムカつくとも思わなくなるのに。・・・たぶん。 私の発した意外という言葉に、晋助はイライラ様子で答えた。 「買ってこねーと、そろばん塾やめさすとかいいやがる。あのババア」 「あ、そろばん塾って自発的に始めたものなんだ」 「何かおかしいか?」 「・・・いや、別に」 てっきり無理やりやらされてるもんだと思ってました、とは言えなかった。なんとなく怒られる気がしたから。晋助の機嫌を損ねると、あとが怖い。私はそれで何度も失敗している。 「も出かけんのか」 「あ、うん、まあね」 「俺も一緒に行ってやろうか。テメェドジだから道でも間違えんだろ」 にやにやしながら晋助が言う。 「い、いいよ大丈夫!ぶらぶらするだけだし」 私は驚いて、そう答えてしまった。晋助のイヤミは日常茶飯事だけど、一緒に出かけようとしてくれたことは今まで一度も無かったからだ。いや、晋助のことだから私のことをからかっただけかもしれないよね。そんな風に思ったのと同時に、晋助が言った。 「・・・なんだ、ただの暇人だったのかよ」 「あ、アンタに言われたくないんだけど」 「そういうことなら話は速えェな」 「はあ?」 晋助は今までと違った、変に爽やかな笑顔で、私に何かを手渡した。何これ、紙? 「それ、頼むわ。3分以内な」 「え、ちょ、晋助!」 私が呼ぶのも聞かずに、晋助はどこかに向かって歩き出してしまった。嫌な予感がして手元の紙を見ると、思った通り買う物のリストだった。こ、こんな量を3分って! 「し、晋助のばか!」 本人の前では絶対言えない悪口を呟くと、私は走りだした。と、とにかく急がないと、あとでどんな仕返しをされるかわからない。いや、仕返しってのも変なんだけど。 全力疾走でスーパーに向かいながら私は、いつになったら晋助のパシリから解放されるんだろうなんて、一生起こらなさそうなことを思っていた。 RICOPRA --- 高杉ノーマルEND |