珍しいこともあるもんだ、と私は思った。ていうかてっきり、晋助は私のこと嫌いだと思ってたんだけど。いや、嫌いは言いすぎにしても、隣とか歩きたくないから、何か買いに行かせたりしてるんだと思っていたのだ。 面食らった私の様子に、晋助は怪訝な顔をした。 「何びっくりしてんだ、嘘に決まってんだろ」 「え?・・・あ、そうだよね、あはは」 晋助の言葉はいつも通りだ、いつも通りのイヤミにすぎない。でもそれに過剰反応してしまうのは、それだけさっきの言葉が嬉しかったからだってことになる。なんで突然そんな風に思うんだろう。仲良くなりたいとは思っていたけど、それでも私にとって晋助は、怖い人でしかなかったはずなのに。 「今日の、意味分かんねーな」 「晋助が昼間に出歩いてるから、なんとなくペース乱されてるの!」 「何だそりゃ」 晋助は面白そうに笑った。晋助がこんな風に笑うのを見るのも久しぶりだ。学校ではあまり関わらないようにしてるし(パシられるから)、そういえば話すの自体も久しぶりなのかも。 もうちょっと話してたい気もするなあ、なんて思っていると、晋助はまたにやりと笑った。 「じゃあ、もっとペース乱してやっか。行くぞ」 「・・・は?」 勝手にそう言うと、晋助は歩き出してしまった。とりあえず後を追った方がいいのかと、私も速足で追いかける。 「ねえ、どういうこと?どこ行くの?」 「2つも同時に答えらんねー」 「じゃあ、どういうこと?」 横に並んだ私を見もせずに、晋助は言った。 「言ったまんまだろ。テメェのペースを乱してやる」 「や、だからその意味が・・・」 「どこ行くかってのは、スーパーに決まってんだろ」 「はあ?」 晋助が何を言っているのかさっぱり分からない。そろばん塾より、日本語学校に通った方がいいんじゃないかとさえ思う。言わないけど。 「ていうかなんでスーパー・・・あ!」 晋助はきっと、私を買い物に付き合わせて、ていうか買い物をさせて、自分は何もしないつもりなんだろう。確かにそれなら十分ペースを乱される。なんてヤツだ! 「わ、私をパシるつもりだな・・・」 「は?・・・あー、半分正解な」 「半分?」 「半分はパシリ要員。んで半分は・・・」 そこまで言って、晋助は黙った。何かを考えているようだ。もしかして、半分って適当に言ったんだろうか。後先考えないところは、昔と変わらないなあ。 「一人で行くよかマシだし」 「え?」 考え事をしていた私は、晋助の呟きを聞き逃してしまった。もう一回、と頼むと、晋助は露骨に嫌そうな顔をした。ていうか、ちょっと怒ってる? 「荷物持ち要員だっつったんだよ」 「・・・え!それも結局パシリじゃん!」 「うるせー犯すぞ」 「ちょ!」 晋助の言うことは、冗談だと言いきれないから怖い。私は慌てて黙ると、晋助の横顔を見た。残念ながらこっちは眼帯側だから、晋助の表情は読み取れない。でも、なんでだろう。なんだか晋助が楽しそうに見える。 「つーか、メモ忘れたわ。3分以内に取ってこい」 「ええ!」 「間に合わなかったらすっげー高いもんおごらす」 はい、行ってきます!と元気よく返事をすると、私は走りだした。なんで晋助の買い物に私が付き合わなければならないのか、なんで晋助の家に私がメモを取りに行かないといけないのか。理不尽なことはたくさんあるけど、文句を言ったってしょうがない。とにかく、間に合わせないと。 それでもなぜか私は、この状況がちょっと楽しいかも、なんて思ってしまっていた。 RICOPRA --- 高杉HAPPYEND |