「・・・いやいや、案外怒ってないかもしれないよね。うん・・・大丈夫大丈夫」 このままじゃ埒があかないと、私は自分に言い聞かせるようにそう呟いた。そしてその勢いで、メールを開封する。差出人の欄には予想通り、阿部隆也と表示されていた。内容はすごく簡単で、『帰るから』の一言だけだった。 「・・・うわ、やっぱ怒ってる」 そりゃそうだよねえ、と私はうなだれた。勉強教えてって私から頼んだくせに、すっぽかされたんじゃ誰だって怒るよ。しかも待ち合わせ場所は図書館にしたから、阿部は図書館まで行って、いらいらしながら帰ってきたわけでしょ。無駄なことが嫌いな阿部だから、きっとめちゃくちゃ怒ってるに違いない。 「とりあえず、連絡取ってみるか・・・」 恐ろしいけど、今連絡を取らなかったら学校で顔を合わせた時が怖い。運がいいのか悪いのか、私と阿部は今隣の席なのだ。 「電話のがいいかな。メールだと返ってこないかもしれないし」 どきどきしながらアドレス帳を開く。これが恋するどきどきだったらどんなにいいか・・・。そんな下らないことを考えながら、私は通話ボタンを押した。 『もしもし』 「あ、もしもし阿部?だけど・・・」 『ああ、起きたの』 「え、なんで寝坊ってわかったの!」 私は驚いて叫ぶと、阿部は電話越しでも分かるくらい、深くため息をついた。 『適当に言ったんだけど。マジで寝坊って信じらんねー』 「なっ!・・・と、とにかくごめん!」 『別にいいけど。やりたいこともあったし』 阿部はそんなに気にしていないのか、普段の調子でそう言った。あれ、怒ってないのかな。それはそれでラッキーだけど・・・でもなんか、ちょっと寂しい気がしないでもない。 『?』 「・・・え?あ、ごめん、なんでもない!」 ・・・もしかしたら私は、阿部と勉強するのを結構楽しみにしていたのかもしれない。そしてびっくりすることに、阿部もそうだったらいいのになんて、ガラにもなく考えてしまってたみたいだ。 『お前、嘘だってバレバレ。俺なんか言った?』 「いや、ホントになんでもないから!」 『・・・ふーん。ま、いいけど』 阿部は案外あっさり引き下がった。嘘だって見抜かれてどきっとしたけど、そんなに突っ込んで聞くつもりもないみたいだ。よかった、と私は思った。寝起きだからか分からないけど、今の私はとんでもないことを言い出してしまいそうだったから。 「と、とにかくさ、今日はごめんね!」 『だからもういいって。・・・今日は』 「・・・え?」 聞き間違いかと思って聞き返すが、阿部は何も言わない。私は、電話口で阿部がどんな顔をしているのかがすごく気になった。なんだかものすごく・・・いじわるな笑顔を浮かべている気がする。それでもしその予想が当たっていたら・・・私は間違いなく、月曜になにかをおごらされるだろう。 私の心を読んだかのように、阿部は電話越しにふっと笑った。 『俺、実はコーヒー牛乳好きなんだよねー』 「な、なに突然」 『いや、別に?』 阿部は楽しそうに言うと、じゃあなと電話を切ってしまった。せめて返事ぐらい待ちなよ!とつっこむが、もう遅い。 「・・・買えばいいんでしょ、買えば!」 私は乱暴に電源ボタンを押すと、携帯をベッドに置いた。悔しいから二度寝してやる! それでも、月曜のことを考えると、なんだか楽しいんだからおかしい。私は目を閉じて、どうにかその気持ちを忘れようとした。 RICOPRA --- 阿部ノーマルEND |