「ううん。気にさわることなんて何も・・・」
『それも嘘。何だよ、はっきり言えよ』

 阿部の口調が、急かすようなイライラした感じに変わった。このまま返事を濁していれば、遅かれ早かれ阿部はキレるだろう。謝りたいと思って電話したのに、それじゃ何の意味もない。
 私は阿部に聞こえないように息を吐いた。たいしたことじゃないんだから、軽く流してくれればいいのに。

「くだらないことだよ?」
『うん、なに』
「いや、あの・・・阿部は、私と勉強するの、そんなに乗り気じゃなかったのかと思って」
『・・・はぁ?』

 阿部の呆れたような声が耳に痛い。だから言ったじゃん、くだらないって。

「だって、あんまり残念そうじゃないから」
『・・・じゃあさ、は残念だったわけ?』
「そりゃあ、まあ・・・」

 とは言っても、さっき気づいたんだけど。私は申し訳ない気分でいっぱいだったのだが、聞こえてきた阿部の声は、さっきまでと打って変わって上機嫌だった。

   、それはくだんなくねーよ』
「え、なんで?」
『なんでも。つーか、俺もくだんねー話するわ』
「うん、なに?」
『俺も、実を言うとめちゃくちゃ残念だった』

 いつも通りの調子で阿部が言った。あまりに普通だったから、ふーん、なんて相槌を打ちそうになった。
 ・・・いやいや、そんなはずない。今のは衝撃発言すぎるでしょ!

「・・・阿部、それは全然くだらなくないって」
『だろ?だからくだんなくねーの』
「うん、よくわかった」

 自分も同じことをしていたのだと思うと、無性に恥ずかしくなる。ていうか、阿部もそう思っててくれたなんて。望んでいたこととはいえ、こんなにはっきり言われるとさすがに嬉しい。

「なんていうか、ありがと、阿部」
『今度は何だよ?』
「や、残念だって言ってくれて、嬉しかったから」
『・・・お前なー・・・』

 受話器の向こうで、阿部が困ったように言った。なんでだろ、私なんか変なこと言ったかな。また怒りだしたらどうしようと焦っていると、阿部が言った。

『そういう可愛いこと言われると、困るんだけど』

 ぶっきらぼうな口調だったが、照れ隠しっぽい感じがした。ん、なんで照れ隠し?ていうか阿部、今なんて言った?

 私が意外な状況に混乱している間に、阿部はじゃあなと電話を切ってしまった。せめて返事ぐらい待ちなよ!とつっこむが、もう遅い。

「・・・さ、さっきの、どういう意味・・・?」

 私はゆっくりと携帯を置くと、ベッドに寝転がった。いや、言葉の意味は分かるんだ。問題は、どうして阿部がそんなことを言ったのかってことである。

「うわ、どうしよ・・・」

 もしかしたらこの先楽しいことが待ってるかもしれないという期待と、月曜どんな顔をして会えばいいのかという不安が入り混じって、私は思わず両手で顔を覆った。








RICOPRA


--- 阿部HAPPYEND



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