ちゃんと8時に起こしてね!って言っておいたのに、どうして誰も来てくれないんだ。ていうかこの静まりかえった感じからすると、もう家には誰もいないんだろう。 「みんな・・・ひどい!」 まあもう過ぎてしまったことは仕方がない。とりあえず今からでも・・・遅刻にはなるけど、参加は出来そうだ。 「行くなんて言わなきゃよかったな・・・学校の補習」 みんな行くっていうからつい自分も、ってなっちゃったんだけど、私は勉強が好きなわけではない。自由参加なんだし、やっぱりやめとけばよかったなあ。 「 バタバタと準備をしていると、部屋のドアの外から、聞きなれた幼馴染の声がした。 「え、梓?」 「やっと起きたのかよ・・・まあいいや、俺リビングにいるから」 「え、ちょっと!」 私が引き留めるのも完全無視で、梓はすたすたと歩いていってしまった(そんな足音がした)。家族はいないのに、なんで梓はいるの?しかもやっと起きたって・・・? 分からないことだらけだったけど、私はとりあえず準備を続けることにした。 「 リビングに入った瞬間、私は梓に尋ねた。梓はまるで自分の家にでもいるかのようにくつろいでいる。まったく意味が分からない。テレビに目を向けたまま、梓は答えた。 「何でって、お前んちのおばさんに、起こしといてって言われたから」 「ええ!?」 いくら用事があるからって、そういうことは普通、家族以外には頼まないだろう。しかも幼馴染の男の子に。私はお母さんの考えなしの行動に、頭を抱えたくなった。 「そうだったんだ、ごめん」 「いや、つーか・・・俺もごめん、起こせなくて」 「ん?」 そこで私は気付いた。梓は私を起こすために家にいたのに、結局起こしてくれなかったんじゃないか。いくら意味不明の頼み事とは言え、引き受けたんならちゃんとやるべきだろう。そう思ったら、なんだかイライラしてきた。梓がちゃんと起こしてくれれば、私は寝坊も遅刻もしなかったのに。 「そうだよ、何で起こしてくれなかったの!」 「はあ?何だよ急に」 「起こしといてって頼まれたんでしょ?じゃあちゃんと起こさないとだめじゃん!」 「お前、なんで寝坊したのにえらそうなんだよ・・・」 梓は呆れたようにため息をついた。そんなことは私だって分かってるけど、今さら引き下がれない。今認めたら、梓に負けたみたいだもん。 「だって、梓が悪いんじゃん!」 「それはまあ、そうだけど・・・だから謝っただろ!」 「ていうか、理由が気になる。もしかして私を寝坊させようって思ったとか?」 「んなわけねーだろ!」 「じゃあ、何で?」 「・・・別に、そんなのどうでもいいだろ」 顔を背けながら、梓が言った。てっきり怒りながら返事してくると思ったのに、いきなり大人しくなるから私も面食らってしまった。なんか顔まで真っ赤にしちゃって、何がそんなに恥ずかしいんだか。 「・・・まあ、そうだけど」 黙っているわけにもいかないのでとりあえず返事をしてみたが、本心は逆だった。梓がどうして起こしてくれなかったのか、梓が今、何を考えているのか。何故だか分からないけど、すごく気になってしまった。今までこんな風に思ったことなんて、無かったのに。 「・・・つーかさ、。今日なんか予定あったんじゃねーの?」 「え?・・・あ!補習!」 予想外の出来事がありすぎて、補習の存在をすっかり忘れていた。全部全部、梓のせいだ! 私はソファに座っている梓の腕を引っ張って立たせると、そのまま玄関まで連れて行き、外に出してドアを閉めた。何か言ってたけど、そんなのお構いなしだ。 そこまでして、お礼を言っていなかったことに気付いた。起こしてくれなかったとはいえ、忙しい梓を拘束してしまっていたのだ。でも今出ていくのは、何となく嫌だなあ。 後でメールでもしておけばいい、と自分に言い聞かせると、私は鞄を取りに部屋へと向かった。 RICOPRA --- 花井ノーマルEND |