買い換えたばかりの電波時計の針は、8時を指していた。いつもだったら寝坊でも何でもない時間なのだが、今日は完璧に寝坊である。いや、準備を20分で終わらせればぎりぎり間に合うか・・・? ベッドに正座しながら、働かない頭で逆算をしていく。待ち合わせ場所があそこだから、走れば3分、てことは準備にあと5分使える! 「・・・じゃなくて!」 考えてる場合じゃない、とりあえず動かないと。ベッドから飛び降りると、私は急いで着替えを始めた。 普段の移動手段は自転車だから、少しの距離でも結構こたえる。高校生らしくない発言だとは思うが、仕方ないじゃないか。運動はあんまり得意じゃないんだから! 「ぴったりには・・・着けるかな・・・!」 言うのと同時に、視界にコンビニが映った。行きたいけど、時間的に無理だなあ。私は自分のだらしなさが情けなくて、走りながらもため息をつかずにはいられなかった。 「 「、遅刻でさァ」 「えっ!?うそ!」 慌てて携帯で時間を確認する。時刻は、待ち合わせの2分前だった。 「う、うそじゃん!総悟のばか!」 「バカって言った方がバカなんでィ」 紺色の道着に身を包んだ総悟は、面倒臭そうに言った。 「でさ、手伝いって具体的に何やるの?」 手伝いをするのが嫌なわけではないのだ。ただ、運動が苦手な私が役に立つのかっていうのだけが心配で。それで昨日の夜なかなか眠れなかったんだ・・・なんて言い訳してみる。 「簡単なことでさァ」 「簡単て?」 私が首を傾げると、総悟はにやりと笑った。 「俺のお世話係ですぜィ」 「・・・は?」 質問の意味が分からなくて、私は首を逆側に倒した。すると総悟は、さっきとはまた違う、綺麗な笑顔を浮かべた。そして、重そうな鞄を肩から下ろし、私の足元にどさりと置いた。 「例えば、コレを運んだりする仕事でさァ」 「・・・え!それただのパシリじゃん!」 「どう見ても試合の手伝いですぜ?」 「どこが!」 総悟が言うには、重い荷物を持っていたら肩を痛める危険性がある。肩を怪我すれば竹刀が持てない。ということは試合に勝てなくなる。だからまとめると、荷物持ちはれっきとした試合の手伝いだと言える・・・ということらしい。 なんという俺様理論なんだろう。私は頭が痛くなった。 「あの、総悟さん」 「何ですかィさん」 「・・・帰っていい?」 「あァ、構いやせんぜ」 至極普通に、総悟が言った。予想もしない返答に、私は答えに詰まってしまった。あれ、総悟ってこんなに聞きわけいい人だったっけ? 不思議に思いながらも、私は許可が下りたので帰ることにした。それじゃあ、と踵を返そうとすると、にやりと笑った総悟の顔が見えた。 「俺が出る試合、全部見終わったらですけどねィ」 ついでに言っとくと、俺決勝までいくから、一日いることになりまさァ。そんな風に付け加えると、総悟はさっさと歩いていってしまった。 「・・・えー・・・」 竹刀だけ持って歩いて行ったということは、総悟は本気で私を荷物持ちとして使うつもりなんだろう。なんであんなやつが幼馴染なんだろう、と本気で泣きたくなった。 でも、と私は思った。そんな幼馴染が、試合だとすっごくかっこいいって可能性も無いわけじゃない。逃げられないなら楽しまなきゃ損かな。 目の前に置かれた鞄を見ながら覚悟を決めると、私はおそるおそる手を伸ばした。 RICOPRA --- 総悟ノーマルEND |