朝ご飯も食べられなかったし、行っとくしかない!
 時間がないのは分かっていたけど、私は一旦目的地をコンビニに変えた。今日は剣道部の試合の手伝いに行くのだ。つまり、集合時間はちょっと早めに設定されているに違いない。思い切ってそう判断したのである。



「はー、涼しい」

 炎天下ダッシュのあとのコンビニほど、生き返った心地がするものは無い。首筋の辺りに、ひんやりした風を感じながら、私は速足で店内を歩いた。さっさと選んで行かなくちゃ、総悟に怒られちゃう。
 おにぎりのコーナーをうろうろしながら、私はふと思いついた。差し入れとかって、やっぱりしたほうがいいのかな?なんか、飲み物とか。でも今あんまり手持ちがない。

「どうしよ・・・」

 総悟だったら何が欲しいって言うかな。幼馴染ではあるけど、さすがに好きな食べ物とかまでは知らない。いや、お昼ごはんは多分持参してるだろうし・・・。

「・・・あーもうめんどくさい!」

 私は飲み物のコーナーまで行くと、手早くスポーツドリンクを取った。全員分とか考えたら2リットルのでも何本買っていったらいいのかよくわからない。だからもう、総悟の分だけでいいや。



   、遅刻でさァ」
「だよねー・・・ごめん!」

 慌てて携帯で時間を確認する。時刻は、待ち合わせ時間を2分ほど過ぎていた。

「寝坊ですかィ?」
「うーん、まあ、それもそうなんだけど・・・コンビニ行ってて」
「はあ?」

 紺色の道着に身を包んだ総悟は、呆れたように言った。そりゃそうだ、遅刻しそうなのにコンビニに寄ってくる人なんて、そうそういない。どうしても朝ご飯を買っておきたかったのだと言うと、総悟はため息をついた。

「真面目に聞いて損したぜィ」
「だからごめんって!・・・はいコレ」

 鞄の中からペットボトルを取り出すと、私は総悟に差し出した。総悟は首を傾げる。

「何ですかィ?」
「コレ、差し入れ!」
「差し入れ?」

 総悟は訝しげな顔で、それを受け取った。500ミリリットルのペットボトルはまだ冷えていて、外の暑さに汗をかいている。総悟は何故だかそれをいろんな角度から見たりして、もてあそんでいる。

「こんな小さいのじゃ、俺一人で飲みきってしまいまさァ」
「ん?総悟のだよ?」
「はァ?」

 理解できないと言った様子で、総悟は私を見た。何をそんなに不思議がっているんだろう。幼馴染が試合に出るんだから、差し入れの1つや2つくらいしてもおかしくないじゃないか。

「近藤さんでも、土方でもなく、俺に?」
「そうだよ?え、なんかおかしい?」
「・・・いや、そういうわけじゃねーけど」

 珍しく、総悟の歯切れが悪い。しかも、何となく顔が赤いようにも見える。道着だから暑いのかな。私が遅刻したせいだ、と今更ながらに反省する。やっぱり1リットルのやつにしてあげればよかったかも。

「ごめん総悟、暑いよね。早く中入ろっか」
「え?ああ」
「どしたの?なんかさっきから変だよ?」

 総悟の隣に並びながら言うと、総悟は顔を背けてしまった。一体何なんだ。首を傾げていると、隣で総悟がぼそりと何か言った。

「・・・そういう可愛いことは、家でしてくれると嬉しいんですけどねィ」
「・・・え?なに?」
「いいや、何も」

 気になって問い詰めてみたが、総悟はにやにやするばかりで教えてくれない。そのうちいつも通りの総悟に戻ってしまって(荷物持ちをさせられたりして)、私はひどくがっかりした。








RICOPRA


--- 総悟HAPPYEND



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