第拾話 遼遠 * 「 高杉はどこか寂しそうに笑った。それを紛らわすかのように煙管を吹かす。紫煙がゆっくりと闇を漂った。 あれ以来、あの三人とは会っていない。生きているかどうかさえ、知らない。 だがきっと生きていると、高杉は思っていた。なんとなくではあるが、そんな気がするのだ。 「・・・あいつらには、会いたくねェな」 次に高杉が人前に姿を現す日、それは、江戸が火の海になるということを意味している。 高杉は、全てを壊すつもりでいるのだ。 あの日、山茶花の前で誓ったように、世界を。 「次会ったら、俺ァ確実にあいつらを殺す。これは避けられねェだろうな」 きっと、あいつらは俺の前に立ち塞がるだろう。そして俺は、そいつらを斬らなければならない。 感情は押し殺し、躊躇うことさえも許されない。世界を壊すとは、そういうことだ。 高杉は、瞼を上げた。そして、月よりも遠い一点を、見つめる。 「覚悟はある。でも、これは許されることなのか?」 彼の人は、それを是としてくれるだろうか? 彼の人が守ってきたものをこの手で壊したとしても、仕方がないことだった、といつものように肩に手を置いてくれるだろうか? あの人のためにやることだからこそ、あの人の声が聞きたい。 思うようにやりなさい、と、背中を押してもらいたい。まるで餓鬼だが、恥じることではないだろう? それほどまでに、彼の人は 「・・・なァ、教えてくれよ、松陽先生・・・・・・・・・」 悲痛な呟きは、しんとした夜の闇に融けていくばかりであった。 月が、冴えている。 |