もちろんそれは、その神社の正式なものではない。誰かが勝手に置いていった、すべてが「謎」につつまれたおみくじなのだという。そして何故だか分からないが、それがまたよく当たるらしい。私は、まだ引いたことも、ましてや見たことも無いのだが、気がつけば友人の間では密かなブームと化していた。 「・・・さむっ」 そんな奇妙なおみくじだ。私だってずっと気にはなっていた。だけど、「ものすごくふざけた」なんて形容詞が付いたものにお金をかけるのもどうかと思っていた。 誤解の無いように言っておくが、別に私がケチなわけではない。どうやらアレは、一回五百円というぼったくりおみくじらしいのだ。興味本位でやるにはちょっと高い。 だから、財布の紐がついつい緩んでしまう今日 「確か、境内の右の方って言ってたかな」 友人の証言を思い出しながら、誰もいない境内を歩く。正月といえども、二日の早朝に初詣に来る人間などそうそういないだろうとは思っていたが、まさか人っ子ひとりいないとは。あのおみくじ目当てと思われるのがなんだか恥ずかしくて、人が少なそうな時間帯を選んだのは確かだ。でもここまで閑散としているのも寂しい。 早く用事を済ませて帰ろう、と私は思った。テレビでもつければきっと、一緒にお参りしてくれる素敵な彼がいない寂しさなんて、すぐにどこかにいってしまうはずだ。 「あ、あった」 初見の私でもすぐにわかるくらい、それはド派手な外見だった。でかでかと書かれた「おみくじ」という文字のまわりには、昔よく作った、薄い紙をじゃばらにして開く花がたくさん貼り付けられている。カラフルなそれらのおかげで十分目立っているのに、その下に置かれた十角形(十角柱、と言った方が正しいかもしれない)の箱は、それぞれの面が違う模様で作られているのだ。 うさんくさいにもほどがある。私はつい、財布を出すのをためらってしまった。こんなものが「よく当たる」なんてどうして信じられるだろうか。きっと友人みんなで私をからかっているんだ。そう考えた方がどれだけ自然か。 「・・・・・・」 それでも、私はその場から立ち去ることが出来なかった。どう見たってうさんくさいし、当たるはずなんてないとは思うけれど、もし本当に当たるんだとしたら。ここで引き返してしまってもいいものだろうか。 実を言うと私は、占いとかの類が結構好きなのだ。影響もされやすい。だからもしいい結果が出たならば、思い切ってアタック出来るかもしれない。 そう。私には、好きな人がいるのだ。 「やっぱり、引いてみよっかな」 今思えば、私はきっかけを求めていたような気がする。でも、がつがつしすぎるのも嫌で、だから友人と一緒にここに来ることも出来なくて。そして相反する心に悩んで、むりやりネガティブな方に自分を落ち着かせたつもりになっていたのだ。 かっこわるいなあ、と私は苦笑した。それで結局一人で来ちゃってるんだもん。しかも、誰にも見つからないような時間帯を選んで。 「こうなったら、引いていく以外に選択肢は無いよね」 誰にともなくそう宣言しながら、私は鞄から財布を取り出した。かじかんだ手でがま口をどうにか開くと、あらかじめ用意しておいた五百円玉を取り出して、十角柱の横の小さな木箱に入れた。 「どうか、いいのが出ますように」 『恋愛』のところだけでもいいから、と心の中で付け足すと、私はカラフルな十角柱を振った。するとこれまた派手な色の棒が穴から出てきて、手のひらを転がった。よく見ると、紙が巻かれて棒状になっているようだ。ということは、これがおみくじなのだろう。 「なんていうか、もう不安かも・・・」 嫌な予感を無理やり消し去ると、私はゆっくりそのおみくじを開いた。 |