「・・・あれ?」





 靴を履きながら何気なく外を見ると、空から地面へと細いラインが走っていた。・・・雨か。やだなあ、もう、と私はため息をついた。天気予報じゃ今日降るって言ってなかったじゃん。

「ついてないなー」

 今日日直じゃなかったら、雨が降る前に帰れてたかもしれないのに。

、もしかして傘忘れたのか?」

 後ろから聞こえた声に振り向くと、にやにやしながらこっちを見ている準太と目があった。

「あ、準太」
「仕方が無いから、優しい準太くんが傘に入れてあげよう」
「ん、私折りたたみ持ってるよ?」

 私の答えに驚いたのか、準太は目を丸くした。そして大げさにため息をつくと、下駄箱から靴を出した。

「おいおい、そこは無いって言うとこだろ・・・俺すっげーだせーじゃん」
「そう?そっかごめん。じゃあ持ってない」
「今更言われてもな・・・」

 ったくよー、なんて言いながら拗ねている準太を見ながら、私は首を傾げた。そんな不機嫌になるような場面じゃないはずなんだけど・・・何が気に入らなかったんだろう?

「もしかして準太、私と相合傘したかったの?」
「・・・ばっ、誰が・・・!なんでそういう話になってんだよ!」
「や、だって、やけにこだわるから」
「別にこだわってねーよ!俺はただ親切心で!」
「ムキになっちゃう感じもあやしい」

 今度は私がにやにやする番だ。準太が日常生活で取り乱すのってそうそうないから、何だか面白い。調子に乗って彼の顔を覗き込んでみると、意外にもその頬は赤く染まっていた。

「あれ・・・まじで?」
「・・・・・・」

 なんて言おうか考えているのか、準太は何も言わない。この沈黙、まずいって!私まで恥ずかしいのが伝染しそう・・・。
 私は悩んだ挙句、傘置き場まで歩いて行った。その中から準太の傘を抜き取ると(偶然知っていたのだ)、下駄箱の彼に差し出した。

「・・・何だよ」
「・・・とりあえず詳しく聞きたいので、よかったら傘にいれてくれませんか!」

 何でこんなことを言ったのか分からない。分からないけど、きっと私は何かを期待していたんだと思う。
 この変な申し出にぷっと吹き出すと、準太はこっちに歩いてきた。

「いいけど、途中で逃げんの無しな。投手はメンタル弱いんだから」








【おおきく振りかぶって】高瀬準太END


2010/05/05