「・・・あれ?」





 とりあえずトイレに行ってから帰ろうと引き返していると、女子トイレから人が出てきた。相当背が高いように見えるが・・・あんな長身の女の子、うちの学校に居たっけ?

「ていうか・・・つなぎ・・・?」

 よく見てみると、その人は制服ではなくつなぎを身につけている。ついでに言うと髪の色は金色だ。・・・私はこの特徴にぴったり当てはまる人物を一人だけ知っていた。

「す・・・スパナ・・・?」

 小さく呼んでみると、その人物が目を見開いてこっちを見た。やはり、どう見てもスパナである。彼はにっこり笑うと、こちらに向かって歩いてきた。

、久しぶり」
「ひ、久しぶり・・・なんでトイレから?」

 顔が引きつりそうになるのを何とか堪えながら、私は尋ねた。だって、女子トイレから出てきたんだよ・・・?知り合いとは言え、ちょっと心配にもなるよ。

「トイレの修理、頼まれて」
「あ、なるほど・・・」

 一体誰経由でスパナにまで話が行ったのか分からないけど、とりあえず理由が分かったからよしとしよう。私はスパナの手元の工具箱を見てほっと息をついた。

「スパナが素直に受けるなんて、意外かも」
「断るの忘れてたから」
「・・・それなら納得」

 私は苦笑して、廊下に鞄を下ろした。せっかくスパナがいるんだから、私がトイレに行ってる間、鞄を見ててもらおうと思ったのだ。

「あのさ、スパナ、これ・・・」
「・・・今日、来てよかった」
「え?」
「だって、に会えた。嬉しい」

 俯きがちに微笑みながら、スパナは言った。私はびっくりしてしまって、即座に反応することが出来なかった。だって、いつも言葉足らずのスパナが、こんな照れちゃうようなこと言ってくれると思わないから・・・。
 私は、自分の顔が一気に赤くなったのが分かった。恥ずかしくて、どうにか誤魔化そうと俯いてみるが、多分ほとんど意味は無いだろう。その状態のまま、私は慌てて自分の鞄を指さした。

「と、トイレ行ってくるから、その間鞄見ててほしいんだけど!」
「分かった。いってらっしゃい」

 笑顔で手を振るスパナに、私は何の反応も返せないまま、トイレに駆け込んだ。
    ここまではよかったのだ。いや、もう既にダメだったのかもしれない。だって、個室に入った後に私は、この後どんな顔して出ていったらいいんだろう、と悩む羽目になったんだから。








【家庭教師ヒットマンREBORN!】スパナEND


2010/05/05