私は少し考えた後、門を出て右に曲がることにした。 「・・・ん?あれは」 しばらく歩いて行くと、制服姿の男の子が一人で立っているのが見えた。あれは多分、栄口だ。いつも巣山と帰ってるのに、一人でどうしたんだろう。不思議に思って、私は小走りで彼のところへ向かった。 「栄口ー!」 「・・・ん?おー、!あれ、こっちいるって珍しくない?」 「今日はぶらぶらしてみようかと思ってさー。ていうか栄口こそ珍しくない?一人って」 「今巣山待ってるんだよ。今日俺ん家で勉強するから、道具取りに行ってるんだ」 「えらっ!何も無いのに勉強するって、やっぱ野球部って真面目なんだ」 そう茶化してみると、栄口はきょとんとした。 「何言ってんだよー!明日テストやるって先生言ってただろ?」 「・・・え?」 「・・・、もしかして忘れてた?」 「・・・はい」 栄口の話によれば、どうやら明日数学の小テストがあるらしい。小テストとは言っても結構問題数があるから、ちゃんと勉強してこいよー、と先生が言っていたそうだ。重要なことは抜かりなく聞いていたつもりだったのだが、そのタイミングだけ夢の世界に行ってしまっていたのかもしれない。 「おーい、大丈夫かー?」 「・・・や、もう、全然ダメかも」 「って数学苦手だっけ?」 「と、とっても」 そうかー、と言いながら、栄口は苦笑した。私も合わせて苦笑した。勿論笑いごとではないんだけど。 「じゃあも一緒に勉強する?」 「・・・え、いいの!?」 「俺らじゃ頼りにならないかもしれないけど、人数は多い方がいいだろうし」 「あ、ありがと!」 栄口の笑顔がこんなにも頼もしかったとは。私は感動で泣きそうになるのを堪えながら、栄口の横に並んだ。すると遠くに巣山の姿が見えて、さらに泣きそうになってしまった。
【おおきく振りかぶって】栄口勇人END |