そして、喫茶店に行くことにした。一回制服で行ってみたかったんだよね。だってなんか、お洒落じゃん。一人でコーヒー飲んでる女子高生って。 「・・・あれ?」 注文したドリンクを持ちながら席を探していると、奥の席に知った顔を見つけた。あれは・・・九ちゃんだ。なんだ、来るって知ってたなら誘ったのになあ。私はそろりそろりと近づいて、俯いて何かを読んでいる九ちゃんに声を掛けた。 「ああ、ちゃんか。奇遇だな」 「本当だよねー。ここいい?」 「勿論。どうぞ」 九ちゃんの前に腰を下ろしながら、何でこの子はこんなに可愛いのに彼氏がいないんだろうか、と思った。やっぱり男って見る目が無いなあ。私が男だったら、絶対放っておかないのに。 「何読んでるの?雑誌?」 「妙ちゃんに薦められたんだ。こういうのが似合うんじゃないかって。ちゃんもそう思うか?」 覗きこんでみると、ちょっとボーイッシュでカジュアルなコーディネートがたくさん掲載されていた。さすが妙ちゃん、よく分かってるなあ。私はうんうんと頷いた。 「すっごく似合うと思うよ。これなんか特に」 「本当か?じゃあ今度、こういうのを買ってみよう」 「そしたらそれ来て、みんなで遊びに行こうよ」 「うん、それは楽しみだ」 九ちゃんはこっちを見て微笑んだ。私もつられて笑顔になってしまう。今日喫茶店に来てみて本当によかったなあ。新しい九ちゃんを見れた気がするもん。 幸せな気持ちで、私はカップを持った。そのまま口に運ぶつもりだったのだが、背後で大きな音がしたので、その手は止まってしまった。もう本当に、ドーン!って感じの。 「・・・なに!?何の音!?」 「若ァァァ!私とはご一緒して下さらないのに!さんならオッケーってあんまりじゃありませんか!」 「・・・へ?」 恐る恐る振り向くと、私の真後ろに、息を切らした東条が立っていた。更に彼の後ろのドアがゆらゆらと揺れているから、タックルでもして入ってきたんだろう。私は何も言えないまま、前に向きなおった。九ちゃんは無反応だ。 「あ、あの、九ちゃん?アレ・・・」 「気にするなちゃん。そこには誰もいない」 「ちょっ、若!存在を無視されるのが一番辛いんだから、人にはそういうことやっちゃいけないって何度もお教えしたでしょう!ああでももしそれが私に対するツンならば、デレがやってきてくれるまで待ちましょう・・・!この東条、耐えてみせます!」 背後で次の演説を始めようとした東条を遮って、私は九ちゃんに頭を下げた。 「・・・えーと、九ちゃん、やっぱ無理かも。気になる」 「そうか・・・じゃあ店を出ようか。ショッピングでもしよう」 「若!それなら私もご一緒に・・・グハァ!」 「お前はゆっくりコーヒーを楽しんでいけ」 笑顔で言うとすぐに、九ちゃんは立ち上がってしまった。後ろを見てみると、一体どういう技術を使ったのか分からないが、私の背後に立っていたはずの東条はいつの間にか雑誌を顔にめり込ませて倒れている。アレ、さっきまでの可憐な九ちゃんはどこへ・・・? 私は慌てて、カップのコーヒーを飲み干した。そして九ちゃんの後を追いながら、次に話しかけたときには機嫌が直っているといいな、と思った。ていうかそうじゃないと困る。
【銀魂】柳生九兵衛END |