私は、目の前の自分のと同じ鞄を開いた。確かに私のと全く同じ種類の鞄なのだが、前ポケットのファスナーにキーホルダーがついていないのだ。キーホルダーだけ無くなってしまったという可能性もあるが、これは多分私のじゃないだろう。このメーカー、人気だし。 あまり期待せずに、私は鞄の中をのぞいた。 「・・・あー、やっぱ私のじゃないや・・・」 整頓された鞄の中身は、何となく男子っぽかった。男の子でもこういう鞄持つんだなあ、と意外に思いながら中を見ていくと、教科書に名前があった。 「あ、これ・・・花井のじゃん」 そういえば、今日の5時間目までは、花井がここの席だったんだっけ。それにしてもしっかりしてそうな外見なのに・・・案外抜けてるところもあるのかな。 「何かそれって・・・可愛いかも」 長身の彼のことを思い浮かべながら、私は不覚にもにやにやしてしまった。田島とか水谷だったらどうも思わないけど、花井だと何かいいかも。ギャップルールっていうか。 そんなことを考えていた時だ。 「!」 開いていた前のドアから、突然花井が入ってきた。私は慌てて顔を真顔に戻すと、待ってたよ、と声を掛けた。 「ほんっとごめん!席替えしたの忘れてて・・・」 「気にしないでー。それより鞄一緒だったんだね。意外かも」 「こ、これは、母親の趣味で・・・明日からはまたエナメルにするからいーんだよ」 「えっ、ちょっと残念。せっかくのペアルックが」 「ばっ・・・!何言ってんだよ!」 「冗談だよーごめんって!はいじゃあ交換ね」 「おう」 受け取った鞄をそのまま肩にかける。花井の体温が移った気がして、何だかちょっと恥ずかしかった。 「じゃあ俺友達待たせてっから、行くな」 「うん。じゃあねー」 手を挙げながら、花井は走っていった。みんなのところに戻ったら、ちょっとはからかわれたりするのかな。 そしたらきっと花井は、真っ赤になって怒るんだろう。それもまた可愛い、と私は思った。
【おおきく振りかぶって】花井梓END |