私は、目の前の至って普通のスクールバッグを開いた。中身はやっぱり私のじゃない。ということは、置くとこを間違えたか、あるいは悪戯か。とりあえず持ち主が確認出来るものを探そうと、私は中を漁った。

「・・・・・・あ」

 内側のポケットに、生徒手帳が入っていた。生徒証を見れば、誰のだか分かるはずだ。これからこの鞄を届けに行くことを考えると、怖い人じゃない方が望ましい。どうかよろしくお願いしますと誰にともなく願いながら、私は生徒手帳を開いた。

「・・・・・・雲雀、恭弥・・・」

    この名前を見て分かったことが、二つある。一つは、この鞄はきっと故意に置かれていたものであるということ。そしてもう一つは・・・非常に怖い相手に当たってしまったということだ。





    なるべくゆっくり歩いてみたのだが、応接室までの道のりはそんな抵抗をものともしないほど短かった。何となく威圧感のあるドアの前に立って、私は深呼吸をした。どうして雲雀さんの鞄が私の机にあったのか分からないけど、とりあえず怒らせないことだけ注意すれば、きっと乗り切れるはずだ。
 まるで戦場に向かう兵士のような気分で、私はドアをノックした。どうぞという声に従って、そっとドアを開ける。中の空気は、外のそれとは違うような気がした。

「し、失礼します・・・」
「やあ、待ってたよ」

 見るからに座り心地のよさそうな椅子に腰かけながら、雲雀さんはこっちを向いた。やっぱり、私が盗んだみたいに思ってるのかな。だとしたら相当ヤバいな・・・。それならばいっそ、先手必勝を狙った方がいいのかもしれない。
 私は、一歩前に出て、雲雀さんを見た。

「あの、この鞄、雲雀さんのですよね?私の机のところにあったんですが」
「うん、そうだろうね。だってそれは僕が置いたから」
「・・・え?」
「君の鞄、校則違反だったからね。没収させてもらった」
「それで代わりに自分の鞄置いといたんですか?」
「そうだよ。盗難だと思われたら面倒じゃない」

 雲雀さんは至極真面目な顔で言った。私はびっくりしてしまって、空いた口が塞がらなくなってしまった。うちの学校の風紀委員って、やっぱりみんなバカなんだ・・・!こんな手の込んだことする方が、よっぽど面倒じゃないか。

「・・・普通に、面と向かって注意してくれれば直したんですけど・・・」
「面と向かって?・・・ワオ、確かにそうだね。それは思いつかなかったよ」
「普段からこんな面倒なことやってるんですか・・・?」
「これが最善策だと思ってたからね。誰も反対しなかったし」

 それは雲雀さんが恐ろしいからです、とはさすがに言えなかった。こんなところで咬み殺されちゃったら、せっかく買っておいたアイスが食べられなくなっちゃうもん。私は雲雀さんの座っている横のソファに彼の鞄を置くと、部屋の端に置いてあった自分の鞄を手に取った。

「すみません、明日はちゃんと鞄替えてくるので、もう帰ってもいいですか?」
「ああ、構わないよ。でも君、明日もちゃんとここに来てね」
「何でですか?」

 ちゃんと替えたか確認でもするつもりだろうか。案外ちゃんとしてるんだと感心しながら、私は鞄を肩にかけた。同時に雲雀さんが口を開いた。

「君には風紀委員会に入ってもらう。きっと必要な人材だからね」







【家庭教師ヒットマンREBORN!】雲雀恭弥END


2010/05/05