すると、今朝持ってきたはずのメイク道具が入ったポーチが、無い。隅々まで見ても無い。どこやったんだっけ?と首を傾げていると、背後から声がした。

さん。アンタが探してるのは、このポーチですかィ?」
「え?」

 振り向くと、ドアのところに沖田が立っていた。ああそうか、沖田に貸したんだったっけ。全部思い出した私は、ほっと胸をなでおろした。無くしたわけじゃなかったんだ。

「はいそうです。貸したの忘れてたよ」
「ありゃ、その程度の物なんですかィ?こっちは死ぬ気で返しに来たってのに」
「道中一体何があったの?」

 私の質問には答えずに、沖田はこっちに向かって歩き出した。わざわざ返しに来てくれるなんて、意外だなあ。沖田って、借りパク(ていうか借り捨て?)とか平気でやりそうなイメージなのに。
 内心でひどいことを考えながら、私は沖田がやってくるのを待った。

「どーも、助かりやした」
「いえいえ。でもこれ何に使ったの?」
「んなの決まってらァ。土方に悪戯しようとしたんでィ」
「なるほど、いつものか・・・ん?しようとしたってことは、結局使わなかったってこと?」
「いや・・・使ってたぜィ?」
「使ってた?土方が?」
「いや、近藤さんが」

 ちょっと意味が理解出来なくて、私は沖田を見上げた。何故だか分からないが、沖田は私の視線を意識的に避けている気がする。何だか嫌な予感がするなあと、私は返してもらったばかりのポーチを見つめた。

「・・・近藤が使った理由は?」
「芸能人は男でもメイクするって聞いて、俺もメイクしたらお妙さんにカッコイイって言ってもらえるかも!って思ったみたいですぜィ」
「あ、そうなんだ」
「そうなんです。じゃあ俺はこれで」
「あっ、沖田!」

 共通語で答えると、沖田は風のように教室を去った。さすが剣道部、瞬発力は天下一品だ。もし私もあのくらい足が速かったなら、追いかけていってパンチを食らわしてやりたいところだ。・・・本当に。

「まあ、感心したり怒ったりしてる場合じゃないんだけど・・・」

 このポーチの中では、一体どんな惨劇が繰り広げられているのだろうか。あの口が達者な沖田が誤魔化せない状態なんて、全く想像できない。近藤は何をしでかしたというのだろう。

「・・・そうだ、近藤が使ったんだもんな・・・近藤が・・・」

    本当に失礼だとは思うんだけど、どちらかというと土方のがよかったな、なんて、ちょっと思った。







【銀魂】沖田総悟END


2010/05/05