すると、今朝持ってきたはずのジャージが、無い。

「・・・嘘、なんで・・・?」

 午前中の体育で使ったっきり意識してなかったから、いつ無くなったのかは分からない。これってもしかして、本当に盗難事件とか・・・?
 私は背筋が寒くなるのを感じた。だってジャージを盗むって、間違いなく変態じゃん!

「え、やだ、どうしよう・・・」

 職員室に行かなきゃ、と思っても、足が動かない。教室の方が危険だっていうのは分かってるけど、もし犯人がそこら辺にいたとしたら   

ー!」
「うわっ!!」

 ガラッとドアが開くのと同時に、誰かが私の名前を叫びながら入ってきた。どこかで聞いた声だとは思うけど、完全にビビってしまっている私には分かりそうもない。とりあえず手でガードの体制を作りながら、私は目をつぶった。

「ん、それ何のポーズだ?」
「・・・あれ?もしかして武・・・?」

 ゆっくりと目を開けてみると、満面の笑みを浮かべた武が目の前に立っていた。ほっとするのと同時に、警戒してしまった自分が馬鹿馬鹿しくて、私は机に突っ伏した。

「もー、びっくりさせないでよ・・・」
「わりーわりー、そんなにびっくりすると思わなくてさ」
「それで、私に何か用事?」
「おお!これ、ありがとなー」

 ちらりと武の手元を見ると、何やら袋が握られている。なにそれ、と尋ねると、武は笑顔でジャージだと答えた。

「・・・えっ!?見つけてくれたの!?」
「いや、さっき借りたから。助かったぜ!」
「・・・えー」

    どうやら私のジャージは、山本武に拉致されていたようだ。いくら幼馴染とは言え、勝手に持ってくのはダメでしょ・・・。私はため息をついて、その袋を受け取った。

「ていうかさ、男の子に借りなよー」
「すっげー急いでたからなー。それよりさ」
「ん?」
ってやっぱちっちぇーのな!ジャージ結構短かった」
「はあ!?」

 勝手に持って行ったのになんてこと言うんだ!長年のコンプレックスを笑顔で指摘するなんて、全くひどい奴である。私は隣に立っている武のお腹に、連続パンチを叩き込んだ。

、痛い痛い」
「武が悪いんでしょー!」
「あはは、わりーわりー!」

 小学校の頃から全く変わらないやりとりをしながら私は、明日からもっとたくさん牛乳を飲もうと決心した。







【家庭教師ヒットマンREBORN!】山本武END


2010/05/05