するとそこには、お菓子が入っていた。・・・多分、お菓子だと思われるもの、と言った方が正しいかもしれない。

「・・・えーと、これは・・・麦チョコ、かな?」

 中身は間違いなくそうなのだ。私が困惑する理由は、そのケースにある。私はその流れるようなフォルムのケースを手に取った。

「何でアイツは・・・これを私の鞄に?」

    実は、見つけた瞬間から犯人は分かっていた。問題は、何故彼がそんなことをしたのかということだ。私は首を傾げながらも、とりあえず立ちあがった。





   失礼しまーす」

 場所は変わって武道場である。なるべく静かに扉を開けると、ひっそりとした道場が何だかとてつもなく広く見えた。今日は自主練をするって言ってたから来てみたのに、この様子だともういないみたいだ。私はため息をついた。せめて理由だけでも聞いておきたかったと。

「いないんじゃ仕方ない・・・帰ろっかな」
「・・・あれ、?」
「わ!」

 後ろから突然聞こえてきた低い声に驚いて、私は鞄を落としそうになった。そんな私を見て、胴着に身を包んだ男   土方は訝しげな顔をした。

「何でそんなびっくりすんだよ」
「や、だって、もう帰っちゃってるかと・・・」
「顔洗いに行ってたんだよ」

 言いながら私の横を通り抜ける土方を見ると、確かに前髪が濡れている。水も滴る、とはよく言ったものだなあ、なんて、ふと思った。

「で、何か俺に用事?」
「・・・あ、そうそう!これ、なに?」

 私は鞄から、さっきの麦チョコを取り出した。それを見ると土方は、不思議そうに首を傾げた。

「・・・何って、麦チョコだろ?お前知らねーの?」
「麦チョコは知ってる!そうじゃなくて、何でマヨネーズのケースに麦チョコが入ってるの?そしてそれが私の鞄に入ってるの?」

    そういうわけなのである。私はそのマヨケース入り麦チョコを土方の目の前に突き出して、相手の出方を待った。彼のことだから嫌がらせってことは無いだろうけど、突然プレゼントをくれるようなタイプでもない。一体何が目的なんだろう。
 彼は首にかけたタオルで髪の毛を拭きながら、面倒臭そうに口を開いた。

「何でって、ホワイトデーだろ」
「・・・・・・え?」
「ケースはまあ・・・そっちの方が美味そうだったから、わざわざ入れ替えてやったんだ」

 感謝しろよな、なんて言いながら笑顔を浮かべる土方に、私はなんて言っていいのか本当に分からなかった。仕方が無いので、ホワイトデーには遅すぎるよ、とだけツッコんでおいた。







【銀魂】土方十四郎END


2010/05/05