するとそこには、見慣れないノートが入っていた。私はセット売りのノートを使っているから、別のが混ざっていると目立つのだ。裏向きになっていたそれを表に返すと、そこにはちゃんと教科名と名前が書かれていた。黒のマジックででかでかと、だ。

「数学・・・田島悠一郎・・・」

 さっきまで、誤って紛れ込んでしまったものだと思っていたのだが、この名前を見て確信した。これは偶然なんかじゃない。田島の陰謀だ。
 私はノートを机に置くと、携帯を取り出して、すぐに田島に電話を掛けた。しばらくなった後に、眠そうな田島の声が聞こえた。

『もしもーし』
「私の鞄にノート入れたって、宿題はやってあげないよ」
『えー何でだよー!』

 やっぱりな。私は左手で額に手を当てた。確かに昔、そういうことをやってあげたこともあった。でももう私たちは高校生だ。このくらい自分でやってくれなきゃ困る。

「幼馴染は便利屋じゃないのー」
『でもさ、俺あれ全然分かんねーよ!』
「だったら一緒にやればいいじゃん?」
ん家でやるならいーよ!』
「はあ?」

 変な条件に首を傾げながらも、私は承諾していた。だって、移動しなくていい分私が楽だし(と言っても家はものすごく近所なのだが)。そんな軽い気持ちで返事をしたのだが、受話器の向こうの田島は驚いたように言った。

『えっ、マジで!?ゲンミツに!?』
「うん。だって断る理由ないし」
『よっしゃー!じゃあもう行っていい?』
「あ、待って!私まだ学校だから、近くなったらメールする」
『分かった!早く帰ってこいよな!』

 言いたいことだけ言って、田島は電話を切った。なんて勝手な奴だとため息をつきながら、そういえばヤツを部屋にあげるのは初めてだったかもしれないと思った。

「・・・片付けたりするべき?」

 適度に散らかった部屋を思い浮かべながら呟く。まあ勉強するスペースはちゃんとあるし、問題無いか。しかも相手は田島だし。野球用品やゲームが散乱しているアイツの部屋よりは百倍綺麗な自信があるのだ。

   あ、そだ、あのゲームやってもらおっと」

 さっきまでのけだるい気分はどこへやら。勝てなくて放置していたゲームの存在を思い出した途端に、勉強会が楽しみになってしまった。手早く鞄のチャックを閉めると、私は小走りで教室を出た。







【おおきく振りかぶって】田島悠一郎END


2010/05/05