「・・・どうしよう、明日でもいいかな・・・」

 でも無くなったりしたら大変だから、持って帰っとこう。教科書を盗んだりする人はいないとは思うが、私は心配性なのだ。

「・・・ちょっとでも折れたりしたら怒られそう・・・」

 教科書をそっと鞄に入れると、私は立ち上がった。明日来たらすぐ返さないとなあ。





    風呂からあがって部屋に戻ると、携帯が鳴り響いていた。電話がかかってくるなんて珍しいと思いながら通話ボタンを押した。途端に声が聞こえてくる。

「何回電話したと思ってんだよ!」
「もしもしくらい言わせてよ!ごめんお風呂入ってたの」
「そんなことはいいからさっさと52ページの問題を教えろ」

 電話の相手、獄寺の意図が分からなくて、私はただはあ?と答えることしか出来なかった。そんな態度にイライラしたのか、電話の向こうの獄寺の声が大きくなる。

「今日お前に教科書貸しただろ?今日中に返すっつったから貸したのに」
「ああ、あれか!ごめんごめん忘れてて・・・ちょっと待ってね」

 私は鞄を漁って、新品同然の綺麗な教科書を取り出し、音読した。読みながら、電話の相手の顔を思い浮かべる。獄寺が頭いいのは知ってたけど、それが努力の賜物だったとは・・・本当に意外である。

「獄寺って、ちゃんと勉強してるんだねー」
「何言ってんだ、10代目のために決まってんだろ!」
「・・・はあ?」
「10代目が明日当たるって仰ってたから・・・俺が予習しとくのは当然だ」
「あ、そうですか」

 何というか、妙に納得してしまう返答である。私は苦笑した。

「やっぱり獄寺は沢田ラブなのかー」
「そんな失礼な言い方すんじゃねーよ。俺は10代目を尊敬してるだけだ」
「えーじゃあさ、私ってラブの対象に入る?」
「なんだよ突然」
「だって他の女子のは断るのに、私にはすんなり教科書貸してくれたからさー。もしかして脈ありかと思って」
「ばっ、何言ってんだよふざけんのも大概に・・・もう切るぞ!じゃあな!」

 私の返事も待たずに、獄寺はぶちっと電話を切ってしまった。

「あれ・・・?」

 私も同じように電源ボタンを押したのだが、その後しばらくは上手く頭が働かなかった。
    そりゃ獄寺はかっこいいと思うし、好きか嫌いかって言われたら好きだ。でもさっきのはただからかおうとしただけで・・・怒られて終わりになるはずだったんだけど。

「まさか・・・案外図星だったとか・・・?」

 もしかしてもしかするとすごいところに踏み込んでしまったんじゃないか・・・?私は自分の顔が熱くなっていくのを感じながら、とりあえずもうほとんど乾きつつある髪を拭いてみたりした。








【家庭教師ヒットマンREBORN!】獄寺隼人END


2010/05/05