「・・・どうしよう、やっぱ返しに行っとこうかな」

 今日のうちに返すって言ってしまった以上、やっぱり返しておくべきだと思うのだ。もう帰ってしまっている可能性が高いだろうけど、探してみる価値はある。

「もしかしたら明日から来ないかもしれないし・・・意地でも返す!」

    私が何故こんなに必死かというと、根っからの気まぐれ人間に教科書を借りてしまったからなのだ(今日は偶然機嫌がよかったのである)。出席率もまちまちなため、今日を逃すとしばらく会えない可能性さえある。この状況なら誰だって必死になるだろう。だってアイツの教科書をしばらく預かっとくとか、絶対やだもん!

 私は駆け足で隣のクラスに向かった。後ろのドアのところからそろりと覗くと、黒髪の人物が1人居るのが見える。私は小さくガッツポーズをすると、その人の背中に声を掛けた。

「高杉!ごめん遅くなった!」
「・・・ああ、か」

 高杉はゆっくりと振り向いたのだが、またすぐに前に向きなおってしまった。あれ、私のこと待っててくれたわけじゃないのかな・・・?案外いい奴かもしれない、と思ったのだが、どうやら見当外れのようだ。私は気を取り直して、高杉の席へと向かった。

「これ、ありがと。助かったよ」
「教科書貸したんだっけ」
「あれ、覚えてない?3時間目の前に」
「・・・あー、そういやそうだったか・・・?」

 正直に言うが、私は特別高杉と仲がいいというわけではない。一年のときクラスが一緒だったから借りてみただけなのだ。だから実を言うと、喋ったのも今回が初めてに近い。もっとはきはき喋る人かと思っていたので、私は少々面食らってしまった。

「で、何してんの?こんな時間まで」
「時間つぶし」
「この後予定あるの?」
「そろばん塾あっから」

    この時、えー!っと言わなかった私は本当にえらいと思う。前々から噂には聞いていたけど、まさか本当だとは思わないじゃないか!
 可愛い習い事だね、とも言えず、私は適当に返事をしておいた。高杉は満足したようで、特に何も言わなかった。

「塾まであとどれくらい?」
「あと・・・1時間くらい?」
「・・・それって1回帰った方がよくない?」
 言いながら、私は高杉の前の席に腰を下ろした。帰ることを勧めながらも、もう少し高杉と話してみたいと思ってしまったのだ。変なヤツだとは思うけど、新鮮で・・・何か楽しい。

「帰ると寝るし」
「んじゃあダメだねー」
、帰んねーの?」
「ん、高杉に付き合おうかと思って。迷惑なら帰るけど」

 帰れと言われる気がしていたのだが、高杉はふーんと興味なさそうに答えるだけだった。とりあえず、嫌われてはいないみたいだ。
 何故だか妙にうきうきしながら、私は次の話題を見つけるべく、頭をフル回転させた。








【銀魂】高杉晋助END


2010/05/05