ゆっくりと開いてみると、そこには、何も書いてなかった。言いかえれば、ただの白紙だったのである。 「・・・なんで?」 思いもよらない結果に、私は情けなく呟くことしか出来なかった。だって、この白紙にはどういう意味があるのかがさっぱり分からないのだ。いじめにしては優しすぎるし、かといって何かを伝えたいにしても白紙をチョイスするっていうのは明らかにおかしい。もしかして炙り出しだろうかとも思ったが、何かの事件に関与した覚えも無い。つまりこれは。 「ゴミってことかな。ああでもこれは資源ゴミ・・・うわっ!」 何気なく視線をやったゴミ箱は、恐ろしい状態になっていた。ゴミ捨て当番が二週間ほど行方不明になってるんだな、って簡単に納得出来そうな惨状、と言ったら分かってもらえるだろうか。とりあえず溢れんばかりのゴミが、私に何らかのプレッシャーを与えている。 「これは・・・ゴミ捨てに行くしかないなあ」 正義感に溢れた人間というわけではない。ただ私は、ヤツと遭遇したくないのだ。あのやたらすばしっこくて、生命力が半端ないアイツに。 「・・・あ、あと、もうちょっとで着くかな・・・?」 ゴミ袋を持って階段を下るというのは、案外大変な作業だ。身体が持ってかれそうになるのを必死に堪えながら、私はため息をついた。せめてもうちょっと身長があったら、持ちやすくなるのになあ。 よいしょと袋を持ちなおすと、私は階段を一段降りた。 「あれ、じゃん!」 「え・・・あ、水谷」 袋を置いて振り向くと、私より3段後ろに、満面の笑みを浮かべた水谷が立っていた。彼もゴミ袋を持っているが、すごく軽そうだ。あれが普通だよな、なんて思った。 「もゴミ捨て当番なの?」 「違うんだけど、クラスのゴミ箱が大変なことになってたから・・・」 「へえー、えらいなー!うわ、すっごい重そうじゃんそれ」 とんとんとリズムよく水谷が階段を下りてきて、私の横に立った。こうやって隣で見てみると、やっぱり背が高い。うらやましいなと思いながら、私は袋を持ち上げた。 「結構ね・・・ホント、うちのゴミ捨て当番はダメすぎる」 「誰なの?」 「確か・・・田島」 「それじゃ絶対ダメだー!」 水谷は笑った。私も笑ったのだが、心からというわけにはいかなかった。左手が千切れそうな状況で笑えるほど、私はどうやら強くなかったみたいだ。 もう一回下ろして体制を立て直そう、と左手を緩めると、その重みが一瞬で消えた。落としてしまったかもしれないと慌てて階段下を見てみるが、どこにも見当たらない。 「ちょ、こんなの教室から持ってきたの!?って意外と力持ちだねー」 右側からの声に驚いて振り向くと、水谷の手にはゴミ袋が二つ握られている。いつの間に!という驚きと、水谷のさり気ない優しさに対する驚きで、私は動けなくなってしまった。 「 階段で立ちつくしてる私を見上げながら、既に一階に降り立っている水谷が言った。5段分くらい離れているからだろうか。私の目に映る水谷はいつもより数倍かっこよく見えた。そんな気持ちを書き消そうと、慌てて口を開く。 「え、だって、持ってくれるなんて」 「そりゃ、女の子に重たいものなんて持たせられないよ!」 「でも、水谷重くない?」 「何言ってんの!俺、男だよ?これぐらい全然余裕だって」 得意げに笑って、水谷はゴミ袋を上下させている。私も何だかおかしくなって、笑いながら階段を下りた。さっきはどきっとしたけど、やっぱり水谷は水谷だ。 安心してしまうところがお子様なのかもしれないけど、かっこよすぎる水谷は心臓に悪いから、こっちの方がいいんだ。 「せっかくかっこいいこと言ってたのに、台無しだよ水谷」 「え、何で!?どこがダメ?」 「顔?」 「それはどうしようもないじゃん!」 手ぶらのまま水谷の横を歩きながら私は、今回ばかりは田島に感謝・・・かもしれない、なんて思っていた。今回だけだけど!
【おおきく振りかぶって】水谷文貴END |