ゆっくりと開いてみると、そこには、パソコンで打ち込まれた文字が羅列してあった。間違いなく手書きだと思い込んでいた私は、そこで少々面食らってしまった。その上、どう見たってこの紙は、授業で配られたプリントである。

「・・・なーんだ」

 ファイルに片付けたつもりだったのだが、どうやら隙間に入り込んでしまっていたらしい。ぬか喜びとはこういうことか、なんて柄にもないことを思った。そしてそのプリントを折りたたんで鞄にしまうと、私は立ち上がった。





 下駄箱にも相変わらず人影は無かった。こういうとき、少女漫画だとイケメンが待っててくれたりするんだよね。ただ私はここが現実だっていうのをちゃんと理解しているので、特に周囲を確認することも無くローファーを出した。

「はーいちょっと待って」

    だから、後ろから突然響いた低い声に、もう本当にびっくりしたのだ。振り向くとそこには白い人影があったんだから。
 私は警戒しながら、口を開いた。

「・・・ぎ、銀八先生・・・?」
「そうです私が銀八です。でもそんなびっくりされるような登場してないよね?」
「あ、はい、そうなんですけど・・・ていうかどうしたんですか?」
「どうしたもこうしたもないでしょ!どうしてさんは、先生のメッセージを無視するのかな?あっいや今からそのつもりっていうなら全然問題は無いんだよ?でもそのまま帰られちゃったらやっぱりアレだからさー」
「・・・は?」

 やけににこにこしながら、国語教師の銀八先生が近づいてきた。そもそも担任でも無いこの人にどうして呼びとめられるのか分からない。勿論言っている内容もよく分からないのだが。

「あ、あの、メッセージってなんのことですか?」
「・・・え、もしかして見てない?」
「だから何を?」
「・・・マジでか!頑張って作ったのに!」

 銀八先生はやけに大げさな動作で頭を抱えた。突然現れて、一体何だっていうんだ。迷惑だなあと思いながら、私は一応、何を作ったのか聞いておくことにした。

「あの、さっきから話が見えないんですけど・・・何を作ったんですか?」
「え?・・・もしかしてさん、あの手紙見てない?」
「手紙?」
「ほらあの・・・机の中に入れといたんだけど」
「プリントしか入ってませんでしたよ?」
「それそれ!それだって!中身ちゃんと読んだ?」

 読んでないと答えると、先生は何故か長くて深いため息をついた。理不尽にも程があるのだが、何だか自分が悪いような気がしてきてしまった。だって先生、落ち込みすぎ。
 ちらっと見ただけで授業のプリントだって判断しちゃったけど、実は先生の気持ちがすごく込められた手紙だったのかもしれない。正直銀八先生のことはどうも思ってないけど、教師からの手紙って、ちょっとどきどきするかも。もしかしたらびっくりするようなことが書いてあったりして。
 私は鞄からプリントを取りだした。ゆっくりと開いて、前から順に黙読していく。

「・・・普通のプリントですよね?品詞の活用って書いてあるし」
「それはカモフラージュなんだよ。大事なのは後半!さっさと読む」

 こんなに急かすってことは、やっぱり何か大事なことが書いてあるに違いない。もし告白とかされちゃったらどうしよう!私、年上にはあんまり興味無いんだけど・・・。
 危険な香りに内心期待しながら、私は後半に目をやった。すると、衝撃的な言葉がそこにはあった。

「・・・4時までにジャンプ買ってきて・・・ですか・・・?」

 書き間違いであると信じながら、私は先生を見た。だが残念なことに彼はいつも通り飄々としていた。

「そう、今日何か残業しなきゃいけないっぽいから」
「いや、自分で行けばいいじゃないですか」
「そしたら多分戻ってこれないじゃん?」
「そんなの知りませんよ!」

    下らないことに時間を使ってしまった。こんな人はもう放っといて、帰って家でゆっくりしよう。私は先生がぶつぶつ言っているのを無視して、ローファーに履き換えた。でもさすがに無言で帰るのは失礼だと思ったので、挨拶をしようと振り向いてみる。先生は何だか変な表情だ。

「それじゃ、さ・・・」
「・・・分かった!アイスのご褒美つけるから!」
「・・・そ、そんなんでつられたりしないですよ!」

 おま、そんなんてアイスに失礼でしょうが!なんて叫んでいる先生の声を聞きながら、私は速足で下駄箱を後にした。もうホントあの人変!私が小学生か何かだと勘違いしているんじゃないだろうか。
 そのままずんずんと帰路を進んでみたのだが、一歩足を踏み出すたびに脳裏にアイスのパッケージがちらついてしまうんだからもうどうしようも無い。

「おごるって言ってくれてるんだし、まあ、いいか」

 私はため息をついて、近くのコンビニへと方向転換した。








【銀魂】坂田銀八END


2010/05/05