ゆっくりと開いてみると、そこには、果たし状、と書かれていた。



「・・・はあ?」

 予想もしなかった展開に、私は思わず声を上げてしまった。このご時世に果たし状?どんだけ古風なの・・・。呆れつつも、私は目を動かした。

「今すぐ中庭に来られたし・・・えー、行きたくないなあ」

 そもそもいつから考えての『今すぐ』なんだろうか。誰だかわからないこの差出人は、もしかしてものすごく待たされてるんじゃなかろうか・・・?
 勝手に入れられたにも関わらず、私は何だか申し訳ないような気がした。そして気づくと私は立ち上がって、自然と中庭へ向かっていたのだ。





 今日は夕焼けが綺麗だなあなんて、当初の目的をすっかり忘れて歩いていると、前方の中庭に何かが蠢いているのを発見してしまった。そう言うと虫みたいだが、そんな感じでうろうろしているのだ。
 来なければよかったかな、と私はもう後悔した。そして、どうしてさっきそれを思いつかなかったのだろう、とも思った。

「あ、あのー・・・」

 遠くからそっと声をかけてみて、気づかなかったら帰ろう。勿論気づかないことを前提にしてやってみたのだが、その人はすぐに振り向いた。

!待ってたぜ」
「・・・あれ、ディーノさん?」

 久しぶりだな、なんて言いながら、ディーノさんは笑顔を浮かべている。どういうことだか分からない私は、返事をしながらも首を傾げた。差出人がディーノさんだとすると、本気の果たし状だとも考えられる。でもその受け取り相手が私っていうのがよく分からないし、そもそもターゲットとこんなにフランクに話しているっていうのも謎である。もしかして、

「油断させる作戦ですか?」
「なんだそりゃ?」
「いや、だって、果たし状だったし・・・」

 説明するのが面倒だったので、私は現物を彼に見せた。すると彼は驚いたように、そして少しおかしそうに口を開いた。

「これは確かに果たし状だな」
「差出人、ディーノさんじゃないんですか?」
「手紙を書けって言ったのは俺なんだけど、実際に書いたのはロマーリオなんだ。いろいろ間違ってたって言っとかないとな」

 アイツ、変なとこ抜けてるからさー。と笑っているディーノさんを見ながら私は、ディーノさんだけには言われたくないなあ、なんて思っていた。

「で、結局何の用事なんですか?」
「あ、そうだった。これ」

 ディーノさんはポケットからお菓子の箱らしきものを取り出すと、私に差し出した。受け取るとどうやらチョコレートである。書いてある文字が読めないから、きっとイタリアのお土産だろう。

にあげようと思って」
「ん、私に、ですか?ツナたちには?」
「それはまた別で渡しに行くよ」
「だったらその時でよかったのに!私の家、ツナん家のすぐ近くなの知ってますよね?」
「知ってるけど・・・そういや何でだろうな、何となく2人の時に渡したいって思ったんだよな」

 不思議そうな表情で、ディーノさんは首を傾げた。私に聞かれたって分かんないのになあ、と返答に困っていると、その沈黙を遮るように彼がまあいいかーと言って笑った。私は何故だか分からないけど、ちょっと物足りない気がした。

「俺、今からツナん家行くから、一緒に帰ろうぜ」
「いいですけど、ロマーリオさんちゃんといますよね?」
「ああ、いるけど・・・何か用事?」
「いえ、居てくれれば安心なので大丈夫です!」
「・・・ん、何でそんなに笑顔・・・?」
「特に理由は無いですよ?」
「え、ちょっと待って、お前らどういう関係なの・・・?」

 ディーノさんの質問は無視しながら、私は帰り道の安全が確保されたことに安堵した。ロマーリオさんがいないときのディーノさんて、本当に危ないからなあ。
 私は何度か体験した災難を思い出しながら、深くため息をついた。そしてディーノさんを落ち着かせるにはどうしたらいいのかという難題を、真剣に考えることにした。









【家庭教師ヒットマンREBORN!】ディーノEND


2010/05/05