「何で雨・・・。どんだけ日頃の行い悪いのよ、梓」 窓の外に目をやりながら、私はため息をついた。隣で梓がお茶を啜るのが聞こえる。ああ、ジジ臭い。 「俺のせいじゃねーだろ。自分の胸に聞いてみろよ」 「失礼な!私の生活は皆が唖然とするほど素晴らしいんだから」 「バッカじゃねーの」 最近、梓は自分のお母さんと私にだけこんな態度だ。反抗期の子供か!大学生にもなって恥ずかしい。昔は優しくてかっこいい素敵な彼氏だったのになあ・・・と懐かしんでいると、彼は怪訝な顔をした。 「なんだよ」 「べっつにー?」 「あっそ」 そんなそっけない返事をしながら、彼はテレビをつけた。リアル梓は冷たすぎる。私は立ち上がって、押入れへと向かった。あそこになら 「どこやったっけなー・・・・・・」 一人暮らしで物は少ないのだが、思い出の品など滅多に出してこないからなかなか見つからない。多分紙袋の中にまとめて入れてあったはずなんだけど・・・。 「あ、あったあった」 久々に見るその袋は思ったよりもぼろぼろになっていた。持ち手が破れないようにと慎重に抱えて戻る。どさりという音に振り向いた梓は、またもや怪訝な表情だ。 「なにこれ?」 「私と梓くんの軌跡」 「はぁ?」 私はアルバムを手に取った。これは中学のだ。机の上に広げると、梓は見るからに嫌そうな顔をした。 「げ、卒アルかよ!しかも中学・・・」 「見たくないの?」 「そりゃあ勿論」 「え、なんで!見ようよ!」 「やだよ!だったらまだ高校のがいい」 梓はわがままだなーと言いながら高校の方を取り出すと、その拍子に何かがひらりと落ちた。二人でそれを目で追う。どうやら薄い紙のようだ。 「なんだろ?」 拾って見てみると、裏に何か文字が書いてあった。何とは無しに読み上げてみる。 「えーと・・・ 『あいうえお作文 あずさくんは いじわるで うそつきで えっちだけど おとこらしいからすきです』 ・・・だって」 「何だそりゃ?」 「・・・・・・あいうえお作文だよ」 読みあげなければよかった、と内心後悔しながら、私はぶっきらぼうに言った。何でこんなのとっといたんだろう、ていうか当時の私はなんでこんなものを・・・! 「あ、そういやそんな授業あったっけか・・・」 「そ、そうだったんじゃないかな」 「でも何でお前・・・俺のこと書いてんの?」 「分かんないよ!あれじゃない?隣の席の人のこと書けとか言われたみたいな」 「ああ、なるほどね・・・」 私は作文を裏向きにして置いた。梓はまたお茶を啜った。気まずい沈黙だ。原因は私なんだから、とりあえず何か言おうと頭をフル回転させるが、恥ずかしさでいっぱいのそれは上手く機能してくれなかった。ああもう、何書いてんのよ!すきですって! 「・・・なんつーか、可愛い作文だな」 「・・・へ?」 「今のからは全く想像出来ない可愛さだよな」 「なに・・・・・・」 また嫌味か!と反論しようと梓を見ると、得意げな表情とは裏腹に、顔が真っ赤だった。彼なりに懸命にフォローしようとしてくれたんだな。照れ屋のくせに。私は妙に嬉しくなった。 「まあね、昔の私は今以上にラブリーだったからね」 「そりゃ、今に比べたらなー」 「梓くんは昔から意地悪で嘘つきで変態だったみたいねー」 「変態なんて書いてないだろ!」 「似たようなもんでしょ。ちょっと梓、昔のあたしに何したのよ!ハレンチ!」 「ばっ!何もしてねーよ!いい加減にしろ!」 顔が真っ赤な状態で言われても何の説得力もない。でもまあ、どうせ全部当時の私の嘘なんだろうけど。だって梓はこんなにも優しい。・・・エッチなのは否めないけど。 「後で三橋くんに電話しとこー。きっとびっくりするぞー!」 「三橋はだめだ!あいつは卒倒しかねない!」 「えー、じゃあ水谷くん?」 「あいつは別の意味でだめだ!」 「梓のいじわるー」 「何でだよ!」 すきです、なんて素直に書けちゃう当時の私がうらやましいけど、そうなりたいとは別に思わないんだ。だって今こうやって憎まれ口叩いてるのだって、すごく楽しいから。 「当時の私へ。今の梓くんは昔よりももっと意地悪で嘘つきでエッチです。どうにかして下さい」 「!」
レイニー・レイニ
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(実をいうと俺はあの時、平静を装うのに必死だった) まさかの大学生設定。そして最後だけ花井くん視点。 彼が中学のアルバムを見るのを嫌がったのは、恥ずかしい寄せ書きをしてたからとかそんなんだといいと思います笑 2009/03/18 |