今日は10月10日。天候は晴れ。誰でもウキウキしてしまうほどの青空が広がっている。
 もちろん私たちも例外じゃない。応接間兼リビングのソファで開始された万事屋緊急会議にも、それは熱意へと変化して現れている。いいこといいこと、と私は頬を緩ませた。

「笑ってる場合じゃないよーちゃん。頼むから銀さんの話を・・・」
「銀時議員、発言は挙手がないと認められないネ」
「うるせーよ!」

 メガネをくいっと上げながら、神楽ちゃんが言い、銀ちゃんの平手がすかさず神楽ちゃんをとらえる。
 あのメガネ、一体どこから持ってきたんだろう、なんて首を傾げていると、隣で新八くんがため息をついた。

「とりあえず、銀さんの話を聞きませんか?何が言いたいかは完全に分かってますけど」
「うるせーよダメガネ!」
「そうアル!メガネには発言権なんかないネ!」
「何で結託してんだよ!ていうか神楽ちゃんも今はメガネだろ!」

 新八くんには手厳しい二人は、同時にじとっとした目を彼に向ける。そのタイミングの性格さといったら本当の兄弟みたいで、私はまた笑ってしまった。

「だからねちゃん。笑ってる場合じゃ・・・」
「うん、ごめん。銀ちゃんの誕生日パーティーの相談をしないとだよね」





 くどいようだけど、今日は銀ちゃんの誕生日だ。
 恋人である私は、大好きな銀ちゃんのために何かしたいと、もう3ヶ月も前から考えていた。それは新八くんも神楽ちゃんも一緒だったみたいで、スーパーのチラシを集めて比べてみたり(きっといちご牛乳が安い店を探そうとしたんだろう)、折り紙を無造作にきってみたりしていた。私は私で、銀ちゃんが喜びそうなメニューを考えたりしてみた。
    まあ、飽きっぽい私たちだから、1ヶ月で飽きちゃったんだけど。その結果、何をするかみんなで相談することになったのだ。





「つーかさ、本人を交えて相談っておかしくね?」

 のそのそとデスクまで移動して、座り心地のよさそうなイスに体を沈めると、だるそうに銀ちゃんが言った。

「お誕生日席に座ってんだから、文句言うなヨ!」
「どこがお誕生日席だ?あ?」
「位置的にはドンピシャですよ」
「あ、ホントだー」
「銀ちゃんばっかりずるいネ!私にも座らせろヨ!」
「・・・・・・」

 言い返す気力もなくなったのか、銀ちゃんはデスクに突っ伏した。ちょっと可哀相だったかな。ああ見えて銀ちゃん、誕生日楽しみにしてたみたいだから。
 別にどうでもいいし、みたいな顔しながら、必要以上に期待するんだよなあ。私はちっとも素直じゃない恋人を、苦笑しながら見つめた。そういうとこ、反則だよ。ホントに。

「でも本気でどうします?今からどっか出かけてパーッと・・・する金もありませんけど」
「新八ィ、お通のCD売りさばけヨ」
「ダメー!絶対ダメー!!!」
「はい、二人とも落ち着いて。ちょっと待っててね」

 今にもテーブルの上で大乱闘を起こしそうな二人を制すと、私は立ち上がった。きょとんとしている二人はそのままに、小走りで冷蔵庫へと向かう。

さん、まさか」
「さすがネ!」

 背中に賞賛の声を受けながら、私は冷蔵庫を開けた。実は二人の期待通り、ちゃんとホールのショートケーキを買っておいたのだ。プレゼントも豪華なディナーも、ピンとくるのは思いつかなかったけど、ケーキならハズレがないから。
 ひんやりした風が顔を包んだあと、目の前には白い箱が現れた。よく見てみると、持ち手の下のシールが破れている。

「あれ、何で?」

 しかも持ってみると、買ったときよりはるかに軽い。
 嫌な予感がして、私は箱を開けてみた。

「・・・あー!」
「ど、どうしたんですかさん!」
「もしかして五郎ジュニアがやらかしたアルか!?」

 新八くんと神楽ちゃんが両側に駆け寄って来る。

「こ、これは・・・!」
「うわっ!」
「・・・五郎でもジュニアでもなさそうだよね」

 二人とも私の手元の箱を見て、顔を青くしたり赤くしたりした。そりゃそうだ。本来なら開けたばかりのはずのケーキが、綺麗に半分なくなってるんだから。
 私は箱を新八くんに渡すと、ゆっくりと振り返った。

「銀ちゃん、どういうこと?」

 容疑者は、まだデスクに突っ伏している。私は頬を膨らませた。

「ひどいよ銀ちゃん!あげる前に食べちゃうなんて・・・」
「え、えっとだからね、それはつまみ食いというか・・・」

 慌てて体を起こした銀ちゃんに、じとっとした視線が集まる。

「いや、明らかにつまみ食いの範疇越えてますよ、コレ」
「そうネ!嫁入り前の体にがっつくなんて信じられないアル!」
「おま、やめなさい!ったく、親の顔が見てーよ」
「見てーも何も、見知った仲でしょ」
「そもそもだな、俺へのプレゼントなんだから俺がいつ食っても・・・」
「まだあげてないもん!」

 私が声を荒げると、銀ちゃんはびっくりしたように目をぱちくりさせた。
 そりゃ、ケーキごときでって私も思うよ!思うけど、びっくりさせたかったんだ。ありがとうの言葉はいらないけど、困ったように顔がくしゃっとなる、あの笑顔が見たかったんだもん。

「・・・そしたら、丸々ひとつあげてもよかったのに」
「え、なに、よく聞こえな・・・」

 私は銀ちゃんをキッとにらんだ。こうなったら仕方ないよ、意地でもあの顔をさせてやるんだから。ていうか、そうしないと私の気がおさまらない。

「銀ちゃん、罰としてケーキの材料買ってきて」
「・・・え?」
「ショートケーキの材料買ってきて、自分で作って」
「何で!?」

 銀ちゃんは勢いよく立ち上がった。私の両側の二人もびっくりしたようで、目を真ん丸にしている。

「だってさ、勝手に食べちゃうなんて泥棒じゃん。ちゃんと弁償してください」
「じゃあさ、買ってくれば・・・」
「銀ちゃんのポケットマネーで?」
「何でもありませーん!」

 銀ちゃんはビシッと挙手した。

「じゃあこのお金でケーキの材料を買ってきてください。出来るだけスローモーションで」
「スローモーション!?」

 銀ちゃんの反応は無視で、会議用に置いておいた紙に材料を書き出す。すると神楽ちゃんがそれを覗き込んで、言った。

議員ー、酢昆布は材料に入らないアルか?」
「入らないけど、買い物リストに仲間入りするのを許可しましょう」
「やったアル!」

 メモの一番下に『酢昆布』と書き足すと、私はそれを銀ちゃんに差し出した。

「はい、頼んだ」
「・・・わーったよ、行ってくりゃいーんだろ」

 渋々それを受け取ると、銀ちゃんは玄関に向かって歩きだす。私はその背中に声をかけた。

「夕飯時を狙うくらいのスローモーションだからねー」
「マジでか!」





   で、何をするんですか?さん」
「ん?」
「え、何かしようと思ったから銀さん追い出したんじゃないんですか?」

 新八くんが首を傾げながら言う。さすが、鋭いなあ。私は感心してしまった。

「そう、まさにそれ!」
「やっぱり。で、何するんですか?」

 二人とも、目をキラキラさせて私を見ている。ああ、やっぱり銀ちゃんのことが大好きなんだな。そんな当たり前のことを思いながら、私はにへら、と笑った。

「とりあえず、会議の続きかな?」
「・・・え?」

 ぽかんとした新八くんはそのままで、私は再びソファの定位置に腰掛けた。神楽ちゃんも嬉しそうに、私の斜め前に座る。議員ごっこ、実は気に入ってたんだろう。

「ほら、新八くんも早く早く!」
「さっさとしないと、酢昆布が帰ってきちゃうアル」
「そこは銀さんって言えよ!・・・わかりましたよ」

 はあ、と深いため息をつくと、新八くんは私の横に腰掛けた。目の前に銀ちゃんがいないのがちょっと寂しいけど、銀ちゃんを喜ばせたい気持ちの方が大きいから大丈夫だ。

「・・・銀ちゃん、どしたら喜んでくれるかな」

 ぽつりと呟いた言葉に、二人は嬉しそうに笑った。

「あの人、文句だけは多いからなー」
「給料払わないくせに生意気アル!」

 祝われる立場の人に対して、散々な言い草だ。でも全然、嫌な感じには聞こえなかった。
 傍から見たら変かもしれないけど、これが私たちの愛情表現なんだ。こういう形もアリだよね、きっと。

「・・・あ、なにしたらいいか思いついたよ!」
「何ですか?」
「私、何でもするヨ!」

 机の上に立ちあがりそうな勢いで、神楽ちゃんが言う。私はふふっと笑って、人差し指を立てた。

「とりあえず、いちご牛乳買いにいこっか」














銀さん誕生日おめでとう!
なんだか難しいお題でした。自分で考えたのに。
2010/10/10