もちろん私たちも例外じゃない。応接間兼リビングのソファで開始された万事屋緊急会議にも、それは熱意へと変化して現れている。いいこといいこと、と私は頬を緩ませた。 「笑ってる場合じゃないよーちゃん。頼むから銀さんの話を・・・」 「銀時議員、発言は挙手がないと認められないネ」 「うるせーよ!」 メガネをくいっと上げながら、神楽ちゃんが言い、銀ちゃんの平手がすかさず神楽ちゃんをとらえる。 あのメガネ、一体どこから持ってきたんだろう、なんて首を傾げていると、隣で新八くんがため息をついた。 「とりあえず、銀さんの話を聞きませんか?何が言いたいかは完全に分かってますけど」 「うるせーよダメガネ!」 「そうアル!メガネには発言権なんかないネ!」 「何で結託してんだよ!ていうか神楽ちゃんも今はメガネだろ!」 新八くんには手厳しい二人は、同時にじとっとした目を彼に向ける。そのタイミングの性格さといったら本当の兄弟みたいで、私はまた笑ってしまった。 「だからねちゃん。笑ってる場合じゃ・・・」 「うん、ごめん。銀ちゃんの誕生日パーティーの相談をしないとだよね」 くどいようだけど、今日は銀ちゃんの誕生日だ。 恋人である私は、大好きな銀ちゃんのために何かしたいと、もう3ヶ月も前から考えていた。それは新八くんも神楽ちゃんも一緒だったみたいで、スーパーのチラシを集めて比べてみたり(きっといちご牛乳が安い店を探そうとしたんだろう)、折り紙を無造作にきってみたりしていた。私は私で、銀ちゃんが喜びそうなメニューを考えたりしてみた。 「つーかさ、本人を交えて相談っておかしくね?」 のそのそとデスクまで移動して、座り心地のよさそうなイスに体を沈めると、だるそうに銀ちゃんが言った。 「お誕生日席に座ってんだから、文句言うなヨ!」 「どこがお誕生日席だ?あ?」 「位置的にはドンピシャですよ」 「あ、ホントだー」 「銀ちゃんばっかりずるいネ!私にも座らせろヨ!」 「・・・・・・」 言い返す気力もなくなったのか、銀ちゃんはデスクに突っ伏した。ちょっと可哀相だったかな。ああ見えて銀ちゃん、誕生日楽しみにしてたみたいだから。 別にどうでもいいし、みたいな顔しながら、必要以上に期待するんだよなあ。私はちっとも素直じゃない恋人を、苦笑しながら見つめた。そういうとこ、反則だよ。ホントに。 「でも本気でどうします?今からどっか出かけてパーッと・・・する金もありませんけど」 「新八ィ、お通のCD売りさばけヨ」 「ダメー!絶対ダメー!!!」 「はい、二人とも落ち着いて。ちょっと待っててね」 今にもテーブルの上で大乱闘を起こしそうな二人を制すと、私は立ち上がった。きょとんとしている二人はそのままに、小走りで冷蔵庫へと向かう。 「さん、まさか」 「さすがネ!」 背中に賞賛の声を受けながら、私は冷蔵庫を開けた。実は二人の期待通り、ちゃんとホールのショートケーキを買っておいたのだ。プレゼントも豪華なディナーも、ピンとくるのは思いつかなかったけど、ケーキならハズレがないから。 ひんやりした風が顔を包んだあと、目の前には白い箱が現れた。よく見てみると、持ち手の下のシールが破れている。 「あれ、何で?」 しかも持ってみると、買ったときよりはるかに軽い。 嫌な予感がして、私は箱を開けてみた。 「・・・あー!」 「ど、どうしたんですかさん!」 「もしかして五郎ジュニアがやらかしたアルか!?」 新八くんと神楽ちゃんが両側に駆け寄って来る。 「こ、これは・・・!」 「うわっ!」 「・・・五郎でもジュニアでもなさそうだよね」 二人とも私の手元の箱を見て、顔を青くしたり赤くしたりした。そりゃそうだ。本来なら開けたばかりのはずのケーキが、綺麗に半分なくなってるんだから。 私は箱を新八くんに渡すと、ゆっくりと振り返った。 「銀ちゃん、どういうこと?」 容疑者は、まだデスクに突っ伏している。私は頬を膨らませた。 「ひどいよ銀ちゃん!あげる前に食べちゃうなんて・・・」 「え、えっとだからね、それはつまみ食いというか・・・」 慌てて体を起こした銀ちゃんに、じとっとした視線が集まる。 「いや、明らかにつまみ食いの範疇越えてますよ、コレ」 「そうネ!嫁入り前の体にがっつくなんて信じられないアル!」 「おま、やめなさい!ったく、親の顔が見てーよ」 「見てーも何も、見知った仲でしょ」 「そもそもだな、俺へのプレゼントなんだから俺がいつ食っても・・・」 「まだあげてないもん!」 私が声を荒げると、銀ちゃんはびっくりしたように目をぱちくりさせた。 そりゃ、ケーキごときでって私も思うよ!思うけど、びっくりさせたかったんだ。ありがとうの言葉はいらないけど、困ったように顔がくしゃっとなる、あの笑顔が見たかったんだもん。 「・・・そしたら、丸々ひとつあげてもよかったのに」 「え、なに、よく聞こえな・・・」 私は銀ちゃんをキッとにらんだ。こうなったら仕方ないよ、意地でもあの顔をさせてやるんだから。ていうか、そうしないと私の気がおさまらない。 「銀ちゃん、罰としてケーキの材料買ってきて」 「・・・え?」 「ショートケーキの材料買ってきて、自分で作って」 「何で!?」 銀ちゃんは勢いよく立ち上がった。私の両側の二人もびっくりしたようで、目を真ん丸にしている。 「だってさ、勝手に食べちゃうなんて泥棒じゃん。ちゃんと弁償してください」 「じゃあさ、買ってくれば・・・」 「銀ちゃんのポケットマネーで?」 「何でもありませーん!」 銀ちゃんはビシッと挙手した。 「じゃあこのお金でケーキの材料を買ってきてください。出来るだけスローモーションで」 「スローモーション!?」 銀ちゃんの反応は無視で、会議用に置いておいた紙に材料を書き出す。すると神楽ちゃんがそれを覗き込んで、言った。 「議員ー、酢昆布は材料に入らないアルか?」 「入らないけど、買い物リストに仲間入りするのを許可しましょう」 「やったアル!」 メモの一番下に『酢昆布』と書き足すと、私はそれを銀ちゃんに差し出した。 「はい、頼んだ」 「・・・わーったよ、行ってくりゃいーんだろ」 渋々それを受け取ると、銀ちゃんは玄関に向かって歩きだす。私はその背中に声をかけた。 「夕飯時を狙うくらいのスローモーションだからねー」 「マジでか!」 「 「ん?」 「え、何かしようと思ったから銀さん追い出したんじゃないんですか?」 新八くんが首を傾げながら言う。さすが、鋭いなあ。私は感心してしまった。 「そう、まさにそれ!」 「やっぱり。で、何するんですか?」 二人とも、目をキラキラさせて私を見ている。ああ、やっぱり銀ちゃんのことが大好きなんだな。そんな当たり前のことを思いながら、私はにへら、と笑った。 「とりあえず、会議の続きかな?」 「・・・え?」 ぽかんとした新八くんはそのままで、私は再びソファの定位置に腰掛けた。神楽ちゃんも嬉しそうに、私の斜め前に座る。議員ごっこ、実は気に入ってたんだろう。 「ほら、新八くんも早く早く!」 「さっさとしないと、酢昆布が帰ってきちゃうアル」 「そこは銀さんって言えよ!・・・わかりましたよ」 はあ、と深いため息をつくと、新八くんは私の横に腰掛けた。目の前に銀ちゃんがいないのがちょっと寂しいけど、銀ちゃんを喜ばせたい気持ちの方が大きいから大丈夫だ。 「・・・銀ちゃん、どしたら喜んでくれるかな」 ぽつりと呟いた言葉に、二人は嬉しそうに笑った。 「あの人、文句だけは多いからなー」 「給料払わないくせに生意気アル!」 祝われる立場の人に対して、散々な言い草だ。でも全然、嫌な感じには聞こえなかった。 傍から見たら変かもしれないけど、これが私たちの愛情表現なんだ。こういう形もアリだよね、きっと。 「・・・あ、なにしたらいいか思いついたよ!」 「何ですか?」 「私、何でもするヨ!」 机の上に立ちあがりそうな勢いで、神楽ちゃんが言う。私はふふっと笑って、人差し指を立てた。 「とりあえず、いちご牛乳買いにいこっか」 いつも通り、 アナーキーに |