真っ暗にした部屋では、小さな蝋燭の灯りだけが頼りなく揺らめいていた。その向こうで困ったように頭をかく銀時が妙に色っぽく見えて、私はつい口を開いてしまった。早く消さないと、ロウがケーキに落ちちゃうよ。別に急を要すわけじゃなかった。でも今音を出しておかないと、この雰囲気にのまれてしまいそうだったから。それくらい、この部屋は静まり返っていた。



「つっても、これ消したら真っ暗になるよ?」
「怖い?」
「べっべべ別に怖くなんかねーけど?何言ってんの。銀さんに怖いものなんてないからね、生まれてこの方」



 そう言いながら、銀時はケーキのお皿を持ち上げた。小さな、だけど豪華なタルトが私たちの間で堂々としている。勿論ホールのケーキもちゃんと買った。そっちはさっきみんなで食べて、今はもう箱が残ってるばかりだ。本当だったら蝋燭はホールのケーキの上で踊っているはずだったのだが、銀時の変な猛反対   この歳になって、蝋燭とハッピーバースディの歌はちょっと、といった感じ   によって、あえなく断念という形になったのだ。諦めきれなかった私は、銀時専用の二つ目のケーキに無断で蝋燭をたてた。特にお咎めはなかったけど、歌は流石に遠慮すると言われた。私も大賛成だった。
 十月十日はあと少し。その蝋燭を吹き消したら、部屋の準備だって完了する。だけどそんなこと恥ずかしくて言いたくないから、銀時をじっと見る。早く消して。そうしたら後はみんな、銀時にまかせるから。



「ホントに消していい?」
「うん、いいよ」
「消しちゃったらその・・・」
「ん?」
「だから・・・アレだよ、あの・・・」



珍しく歯切れが悪い銀時の態度に首を傾げると、彼はだからよォ、と唸るように言って顔を背けた。



「消しちゃうと、もう我慢とか出来そうにないっつーか」



   ということは、つまり。私はばつが悪そうにしている銀時を見つめた。そういうことなら、遠慮する必要ないよ。言うのが恥ずかしくて、私は目の前のお皿を持った。銀時が何か言いかけたけど、お構いなしに息を吸い込む。そして。



「ちょ、何やってんのちゃん!」
「何って、蝋燭消したの」
「そりゃそうだけど、そうじゃなくて!」
「・・・もー、鈍いなあ銀時」



私はお皿を引っ張った。真っ暗なせいか、銀時は素直に手を離す。出来るだけ遠くにそれを置くと、ケーキ分の距離を詰めた。顔はほとんど見えないのに、息づかいはいつもよりはっきりと感じられる。彼女の特権だよなあ、なんて思いながら、手探りで銀時に抱きつく。彼は驚いたようで、小さく声をあげた。



「我慢とか必要無いよ、お誕生日なんだから」





 最中に小さな声でおめでとうと言うと、銀時はそっけなく、俺今日誕生日じゃねーし。と言った。びっくりして彼を見ると、にやにやしながら枕元の時計を指さす。目を凝らして見つめてみれば、時計の針はすでに12時05分を指していた。そっか、もう11日なんだ。そう思うと何だか少し寂しくて、私は銀時の背中に腕をまわした。銀時はくすりと笑うと、強く抱きしめ返してくれた。



「次の誕生日も、二人っきりのときは蝋燭よろしくな」







灯りが消えたら
外が明るくなるまで、一緒にいようか










さかたんのみってのもアレじゃねー?と言うことで書いてみました。
長く見えるのは空白のおかげですね!誕生日夢なのに内容うっす!笑
銀さん誕生日おめでとうございます!
2009/10/10