「 「ですよね。いや私は分かってたんですよ。でもこの人がどうしてもって」 「何言ってんの君も共犯だろう?後からそんなこと言ったってダメだからね」 「・・・・・・チッ」 「そうじゃそうじゃアッハッハ」 「アンタに言われたくない!」 自転車を押しながら、私はこれまでに無いほど不機嫌だった。 ちょっとしたことには違いないが警察にお世話になる羽目になったし、何より隣でヘラヘラ笑っているこのバカ教師の存在が一番の原因だ。コイツがいなければこんなことには・・・。 そう。事の発端は全部このバカのせいなんだ。コイツが駅まで乗せてってなんて言わなければ、二人乗りなんかしなくて済んだわけだし、今こんなに不機嫌になる必要も無かった。 「おーい、なんか怖い顔になっちょるよ」 「別に、いつも通りだし。ってか先生、名前で呼ばないでって言ってるじゃん!」 「わしは受け持った生徒は皆名前で呼ぶことにしてるって言っとるじゃろ」 いつものあのムカつく笑顔を浮かべながら、坂本は答えた。何それ、まるで英語教師じゃん。ここは日本、しかも冷めてると評判の東京だっつってんのに、フレンドリーな感じを浸透させようと頑張っちゃう英語教師きどりですか! 心に浮かんだツッコミは口にはせずに、代わりにため息をついた。いくらなんでも長すぎるよこのツッコミ。この上からさらに志村に鋭いツッコミを入れられそうだ。 「若いのにため息なんかつくもんじゃないぜよ」 「それ年齢関係ないと思う」 「は手厳しいのー」 「だから名前!」 一体なんなんだこの教師は。私を怒らせたいの?ホントイライラするんだけど。怒りを静めるために大きく息を吐く。それを見た坂本は、困ったように眉を下げた。 「そんなにわしが気に入らんか?」 「気に入らない」 「はっきり言いよる・・・傷つくなーアッハッハ」 「ていうかもう駅過ぎてんだけど。駅に用事あるんじゃないの」 「わしそんなこと言いよった?」 「はぁ?」 呆れて坂本を見ると、彼は少しだけ考えるような仕草をした後、ああ、と言って微笑んだ。 「それは口実じゃ」 「・・・口実?」 「最近が元気ないように見えたきに、悩みでもあるんかと思って」 自分でよかったら、話を聞いてあげようかと思ったと、坂本は普通に言った。それはまるで友達に言うような雰囲気だったので、私は面食らってしまった。 何言ってるのこの人・・・私の担任でもないくせに。そうだよ、どうせなら銀八に来て欲しかった。ていうかなんで毎日会ってる銀八じゃなくて、週に二回しか会わない坂本が私の変化に気づくわけ?ありえない、ありえないよこんなの。 ちょっと嬉しいと思ってるとか・・・こんなの、ありえない。 「悩みなんか、無いし。先生の勘違いだよ」 「そうかー?これは失敬。お節介じゃったか」 「そうだよ。だからもう学校戻んなよ。私帰るし」 「んじゃあ家まで送るぜよ」 「なんで!」 「どうせ戻ったってプリント作ったりテスト作ったりするだけだから暇なんじゃ」 「それ忙しいでしょ!」 「まーええじゃろ。ほら、チャリ貸し」 返事をするより早く、坂本は私から自転車を奪い取った。そして先ほどと同じように、サドルに腰かけ、右足をペダルにのせた。荷台を手で指しながら、言う。 「さて、どうぞお嬢さん」 「どうぞじゃないよ!さっき警察に注意されたとこじゃん」 「大丈夫じゃろーさすがにここまでは追ってこん」 「他の警官もきっと同じように注意するから!」 「は心配性じゃ」 その坂本の言い方が私をバカにしているようで気に障ったので、しぶしぶ二台に腰かけた。今度捕まったら絶対コイツのせいにしてやる。ていうか実際そうだし。 「出発進行じゃー」 「ちゃんと前向いてよ」 そんな嬉しそうに笑って、振り向かないでよ。どうしていいか分かんなくなるじゃん。ていうかなんで私ドキドキしてるの? 目の前に見える坂本の広い背中が妙にかっこよく見えて、私は思わず目をそらした。 |