「・・・どーする?」 「俺にはどうにも出来やせんぜィ。・・・そうだ、土方が死ねばいいんだ!」 「なにひらめいたって顔してんだよ俺関係ねーだろ・・・あーもうだめだ」 土方の言葉を合図に、私たちは同時に鼻をかんだ。これで鼻がスッキリしたと思ったら大間違い。いつまでたっても鼻の奥に残る不快感と、机に山積みになっていく使用済みのティッシュを見ていると、心底ウンザリする。 鼻を真っ赤にした近藤が、ぽつりと言った。 「嫌な季節になったもんだなあ」 私たちは、いわゆる・・・花粉症だ。 もっと言えば、私たちだけでなく、3Z全員、花粉症なのだ。 * 「だからさ、誰かがやっぱ言ってみるべきだと思うんだよね」 「まあ何もしないよりはそっちのがマシだよな。適任なのは・・・」 「新八くんがいいと思いまーす!なんてったって未来の俺の弟だからな!」 「誰が弟だ!僕は嫌ですからね」 「なんだお前聞いてたのかよ」 このクラスで一番説得力がありそうだと思ったんだけど、今回のはどうしても無理らしい。いざ話しかけようとすると声が出なくなって、代わりに変な汗が出るというんだから仕方が無い。彼はダメ、と。 「やっぱりダメガネはダメガネ以外の何者でもないアルね」 「何だその言い方!じゃあ神楽ちゃんがやったらいいでしょ!」 「私だってイヤね。あの人を前にすると何故だか涙が出てくるヨ」 「バカかチャイナ。そりゃ明らかに花粉症の症状でさァ」 「それだけじゃない気もするけど・・・」 ていうか神楽ちゃんはいつの間に来たんだろう?何気なく私のティッシュ使ってるし・・・。でもまあ仕方ないか。神楽ちゃんは私よりも席が近いから。彼に。 「こういうときは女にやらせたほうがいいのか?アイツでも女の言うことは聞きそうだしよ」 「みんな絶対断るって。・・・あ、じゃあヅラなんかどう?あの人誰が相手でも動じなさそうじゃん」 「お妙さんはダメだぞォォォ!そんな危険なこと、俺が絶対許しません!」 「近藤さん、ちょっと反応遅いぜィ。その話もう終わってまさァ」 「あ、そう?」 「桂さんか。いいんじゃないですか?」 「おーいヅラー。ちょっと来いヨー」 「ヅラじゃない、桂だ。なんだ、リーダー」 両鼻に鼻栓をした状態で、ヅラがやってきた。鼻栓のせいで言葉が聞き取りづらい。ていうかなんで学校で鼻栓? 「ヅラー、あの花粉の発信地に一言抗議してこいヨ」 「ヅラじゃない、桂だ。どうして俺が・・・そこにいる馬鹿共にやらせればいいだろう」 「オイてめェ・・・バカとはなんだバカとは」」 「土方はその通りだが近藤さんと俺に向かって言ってるなら聞き捨てならねーなァ」 「テメーはどっちの味方だ総悟ォォォ!」 「大体、チャイナのほうが俺たちより数百倍バカだろィ」 「んだとォォォ!そんなこと言ったら新八のほうが私より数百倍地味アル!」 「地味関係ねェェェ!」 だって、そんなの神楽ちゃんと沖田とヅラが勢ぞろいした時点で確定でしょ。まったく、どうしてあんな仲悪いのかな・・・別世界での因縁とか?・・・あ、新八ボッコボコにされてる。アレ、近藤もボッコボコになってる。なんだ、お妙ちゃんか。 ため息をついて、首を項垂れる。別に暴れるのは勝手だけどさ、うるさいんだよね。毎日のことだから見てたってちっとも面白くないし。早く終わってくんないかな。誰か止めてよ。 下を向いていると自然と鼻水が垂れてくる。鼻を啜りながら顔を上げ、ティッシュに手を伸ばす。 その時、ものすごく嫌な悪寒がした。なんだろう、何でこんな寒気がするんだろう・・・。え、まさか、もしかして。 恐る恐る後ろを向く。半分ほどいったところで慌てて顔を戻し、後はもうひたすらじっとしていた。やっぱり私の予想は当たっていたのだ。とりあえずみんな、今すぐ解散したほうがいいよ。声に出しては言えないけど・・・っていうか今、声出る気がしない。 その人は私の前で足を止めた。体で隠れて全然見えないけど、今みんなすごい顔してるんじゃないかな。新八が小さく「ヒッ!」って言ったのが聞こえた。それくらい、今の教室は、しんとしている。 「皆さん」 「同じクラスの仲間なんだから、仲良くしましょう。喧嘩はいけない」 みんなが静かに自分の席についたあと、教室内では鼻を啜る音とすすり泣く声だけがこだましていた。 |