部活に勤しんだり、友達と楽しいお喋りを満喫すること、それだけが目的だ。勉強なんてクソくらえ。 そして部活の無い日の放課後は、彼氏とのラブラブデートを楽しむために存在していると言っても過言じゃない。 ・・・まあ今はいないけど。品定め中だからそこんとこはそっとしといて。 少し話が脱線してしまった。まあ、何が言いたいかというと。 「放課後は、補習のためにあるものではないと思います先生」 「そりゃこっちの台詞だコノヤロー。ったく、今日はさっさと帰ってジャンプ読もうと思ってたのによー」 目の前に座る、白衣で白髪の国語教師はだるそうに頭を掻いた。私は勢いよく挙げた右手を下ろして、再びシャーペンを握った。 あんだけバカ大集合な3Zなのに、今回のテストで赤点を取ったのは私だけだったらしい。絶対集団カンニングだって!と必死に抗議したのも虚しく、私のみが補習を受ける羽目になった。 ああもう最悪。今日は阿音と出かける約束してたのに。銀八のバカ。天パ。 「オイー。お前今心ん中で俺の悪口言ったろ」 「え、なんで分かったの!?」 「先生はすごいんですー」 なんだしその言い方。なんかイラッとする。あーどうにかしてこの補習抜け出せないかな。いや、延期でもいい。延期でもいいから今日はとりあえず解放してくれないかな。 無い頭を必死にフル回転して考える。時間がかかるかと思ったが、悪知恵というものは案外ポンと浮かんでくるものだ。すぐに名案を思いついた。 今日はたくさん持ってるんだよね。朝コンビニ寄ってきてよかった! 「ねー先生」 「あー?つかお前さっきから喋ってばっかじゃねーか。手を動かせー手を」 「お願い、コレあげるから帰らせて?」 私は頭を下げると同時に、両手いっぱいのチョコを先生の前に差し出した。皆で食べようと思って買ったアソートチョコの残りだ。 「・・・は?」 「全部あげるから。ジャンプのお供にでも食べてよ。だからお願い!」 「んー・・・」 二つ返事でOKするかと思ったが、銀八は少々不満げだ。やっぱり教師の沽券とか、あるのだろうか。 ・・・いや、多分違う。このろくでなし教師はきっと・・・。 「こんだけじゃーいいよとは言えねーな」 やっぱりな。私は小さく舌打ちをして、顔を上げた。目の前には勝ち誇ったような表情を浮かべた銀八の姿があった。 どんだけがめついんだ、この教師は。両手に溢れるほどのったチョコを見て、当然のようにこれじゃ足りないと言うなんて。仮にも教師と生徒だよ?教師が生徒にたかっていいんですか!とか言いつつも先に不当な取引を持ちかけたのは私なんだけども。 私は大きくため息をついた。やっぱりアレを出さなきゃ駄目か・・・自分で食べようと思って買ったのに・・・。 そろそろと、鞄に手を伸ばす。ゆっくりと出てきたものを見て、銀八の笑みが深くなった。 「これでどうだ」 「いいもん持ってんじゃねーか。コレを出されちゃ仕方ねーな。帰っていいぞー」 * 帰り道、阿音にメールをしながら、ついさっき銀八に奪われたんまい棒チョコバーのことを思い出した。 放課後の自由と引き換えにチョコとんまい棒1本を失っただけなんだから、取引としてはこっちのほうが断然得してるはずだ。 なのに、なんだか損した気分なのだ。今から駄菓子屋行ってもこの悔しさはきっと消えないに違いない。 むしゃくしゃして道端の小石を蹴ったら、塀に当たって跳ね返ってきた。すねの横っちょが痛い。 こんなんだったら、おとなしく補習受けときゃよかったかな、もう。 ふてくされながら歩いていると、脳裏に銀八の笑みが浮かんだ。やけにイラッとした。 |