「土方ってさ、実際剣道強いの?」 「あ?何だよ急に」 放課後まですっかり忘れていた日誌を、もう既に私たちしかいない教室で書く。向かい合って座る感じが新鮮で気恥ずかしく、なんだか落ち着かない。 ちょっと疑うように問いかけたことが気に入らなかったのか、土方は鋭く私を睨んだ。 「いや、だって練習してるとこ見たことないし」 「毎日やってんじゃねーか」 「毎日沖田を追いかけまわしてるの間違いじゃないの?」 「ちげーよ!アレはアイツが部活サボりやがるから連れ戻してるだけで・・・その後ちゃんと稽古してるっつの」 大体総悟は・・・とか何とか言いながら、土方はシャーペンを進める。滑るように動くその手を見て、私はやっぱり土方が剣道が強いはずなんか無いと思った。こんな綺麗な手で、相手をばっさばっさなんて・・・どうしても考えられない。 まあ、年相応にゴツゴツはしてるけど。でも近藤とかに比べたらまだまだ。 「私、頑張れば土方には勝てる気がするんだけど」 「何それ、俺のことナメてる?つーかやったことあんのかよ」 「あるよ。体育で」 「やっぱナメてんだろ」 土方が日誌を私の方に向けた。残りはお前がやれってことだろう。見てみると、『日直から』という欄だけ綺麗に残してあった。優しいっつーか、なんつーか。ここまで書いたなら全部やっちゃえばいいのに。こんなちょっとだけ残したりせずにさ。 筆箱をカバンにしまうと、土方は立ち上がった。 「それ、銀八の机に出しとけよ」 「ねえ、土方」 「あ?」 「今度、試しに勝負してよ」 「何を」 「剣道に決まってんじゃん」 土方は、あからさまに嫌な顔をした。 「んなもんやるまえから結果丸分かりじゃねーか」 「やってみなきゃわかんないじゃん」 「いや、賭けてもいい。テメーが負ける」 自信たっぷりにそう言って、土方は教室を出て行った。なんだ、つまんない奴。もしかして負けるかもって思ってるからあんな風に一方的に否定するんだ。負けず嫌いめ。 その時ふと、いいことを思いついた。私は慌てて立ち上がり、ドアのところまで走った。そしてヤツの後ろ姿にこう叫ぶ。 「じゃあ私が勝ったらジュース一本ね」 ぴたりと、土方は足を止めた。ゆっくりと振り返ると、怒ったような、だけど楽しんでるような表情で一言、返答した。 「上等だコラ」 |