「・・・は、好きな奴・・・いるのかよ」

   そう聞かれて、私は答えに詰まった。いないから、とか、タブーな恋をしてるからじゃない。その好きな人が目の前に座っていたから、言えなかったのだ。私は少し考えて、目をそらしながら小さく、いるよと答えた。
その答えに坂田くんは驚いたようで、目を見開いて身を乗り出してきた。
「マジでか」
「もちろん」
「え、誰」
「それは・・・さすがに」
言えないよ。と言う代わりに、私は窓の方へと視線を移した。外ではいろんな部活が楽しそうに汗を流している。



つられるように俺も外を見た。もしかしての好きな奴がいるかもしれないと、校庭のありとあらゆる人を凝視する。・・・別にそれらしい奴はいないと思うんだけど。いやでも俺、のタイプ知らないしな・・・。ちらりとの顔を見る。今、何を考えているのか。俺の方を見てほしくて、特に必要もないのに口を開く。
「その好きな奴って、どんな奴なの」



これは・・・困った。顔を坂田くんの方に戻すと彼は至ってまじめな顔つきをしていた。ここでごまかすのは簡単だけれど、もしかしたら私の気持ちに気づいてもらえるチャンスかもしれない。一か八か、賭けてみよう。
「んと・・・いつもやる気ないみたいに見えるけど、ここぞってとこでバッチリ決めてくれる人だよ」
「なんつーか、褒めてんのそれ」
「褒めてるよ!すごくカッコいいと・・・思うし」



頬を染めて、は俯きがちに言った。こんな顔をさせてる張本人が自分ではないことが無性に腹立たしくて、俺は椅子にもたれて天井を見上げた。
所詮、俺はクラスメイトの一人にすぎないのか。そりゃ話したことほとんど無いけどよー・・・。
見上げた天井は真っ白で、まるで今の俺たちのようだった。



顔を上げると、坂田くんはつまらなさそうに椅子にもたれていた。この様子だと気づいてもらえなかったどころか、退屈凌ぎにもならなかったようだ。ああどうしてこうも話し下手なのかと自嘲しつつ、急いで次の話題を探す。放課後の教室で、せっかく二人っきりなのだ。彼の笑った顔が見たいと思うのは当然だろう。
恋愛関係の話は避けようと思っていたが、いざ自分の口から出た言葉は意外なものだった。
「・・・坂田くんはさ、好きな人いるの」



また、意外な質問がきたもんだな。
さっきからゆらゆらさせていた椅子を地面につけて、俺は机に肘をついた。二人の間の距離が近くなったので、何となく視線を逸らす。
「好きな人、ねぇ。・・・なに、気になんの」
「え!?あ・・・・うん。まあ」
どうせ興味本位だと思いつつも、結構嬉しかったりする。だってコレ、一応は俺に興味持ってくれてるってことだろ?少なくとも、ただのクラスメイトから仲のいいクラスメイトくらいには昇格したと思うんだけど。
とにかく。俺は俯いて目を細めた。今、何て答えるべきか。いると答えて、それはと言えば、いい結果を期待出来るかもしれない。でも今の段階ではあまりにもリスクが高すぎる。いるといいつつ、の様子を窺って・・・。
ここまで考えて、俺はため息をついた。こんな回りくどいこと、俺にできっかよ。



目の前で不機嫌そうに頭を掻く坂田くんを見て、私は心底焦った。また失敗しただろうか。もしかしたら男の子ってこの手の話題嫌いなのかもしれないし・・・。
心臓がバクバクとうるさく動く。つまんない話ばっかしやがってって、もし嫌われたらどうしよう。白状するとこの片思いは今年で3年目だ。ここまできて、告白する前に嫌われるとか・・・・辛すぎる。
私は弁解しようと口を開いたが、声にはならなかった。坂田くんが、こっちを見たから。



「俺、いるよ。好きな奴」
そう俺が答えると、は驚いたように目を見開いた。少し辛そうに見えたのは、俺の気のせいか?
「そ、そうなんだ。・・・どんな人なの?」
どんな人、か。俺はを見た。可愛くて優しくて頭がよくて性格がいい。それが俺のに対する印象だったが、これを伝えたところで果たしてコイツは自分のことだと思うだろうか?他の3Zの女子の連中ならこぞって挙手してくるだろうが、は多分・・・変に誤解するだけだ。だったら、やっぱり。
「俺の好きな奴はなー」
「・・・うん」
直球でいくしか、ないよな。

「今、俺の目の前に、いるけど」









好きな人の話
夕日が差し込んだせいかは分からないけど、二人の頬は赤く染まっていた









2008/05/04


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