今更言うまでもないことかもしれないけど、3Zには美人が多い。そよちゃんは勿論のこと、お妙ちゃんやおりょうちゃん、阿音ちゃんは誰もが認める美人だ。他にもさっちゃん、神楽ちゃんと、挙げていったらきりがないほどだ。 私といったら、何ともいえない平凡な顔で、クラスの人々に覚えてもらえているのか心配な程である。化粧をすれば変わるのかもしれないが・・・何しろ、やり方がわからない。そういう感じで、高校最後の年に突入してしまったのである。
そんな私にも、好きな人がいたりする。その人はきっと、私のことなんか眼中にないだろうから、別にどうこうしようとは思っていないんだけど・・・それでも、彼の視線の先にいつもいる、あの子が羨ましかったりするのだ。
「わーかァァァァ!あなたはまたそんな・・・この前私が買って差し上げたお花の眼帯はどうしたんです!」
「アレは・・・その・・・トイレに落とした」
「嘘おっしゃい!この東条歩、若の事後は毎回確認しているんです。騙そうったってそうはいきませ・・・グハァ!」
「お前は警察に自首しろ」
   九ちゃんと東条くんは本当に仲がいい。何ていうのかな、言葉で言わなくても、お互いの気持ちは伝わってるみたいな、そんな感じがする。残念ながら私は、どう頑張ったって彼とそんな関係にはなれないから、ただこうやって、気づかれないように見つめていることしか出来ない。ああ、九ちゃんが羨ましいな。
「やっぱり・・・お化粧、練習しようかな」
まずは道具から揃えなければならない。今度お妙ちゃんに教えてもらおう。・・・っていうか、そういえば私、鏡すら持ってないよ・・・。ああもう、なんでこんななんだろう。もっと女の子らしく生まれてきたかったよ。
さん」
「・・・え?」
机に突っ伏していた体を起こすと、そこには東条くんが立っていた。え、なんで・・・!ていうか今の私、いつにも増してブサイクなんじゃ・・・。
慌てて前髪を直していると、東条くんはおかしそうに笑った。
「そんなに慌てなくても。あ、よかったら、これ使って下さい」
差し出された右手には、可愛らしい手鏡がのっていた。カッコよくて優しいだけじゃなくて、センスもいいのか、東条くんって。私は小さくお礼を言って、手鏡を受け取った。「で、えっと・・・どうしたの?」
「ああ、友達が呼んでましたよ。ドアのところにいると」
「わ、全然気づかなかった。ありがとね、東条くん」
「いえ」
後で、友達に何回もお礼を言っておこう。こういうことでもないと絶対喋れないもんね。前髪を今一度確認して、私は手鏡を差し出した。
「これ、ありがとう。可愛い柄だね」
「あ、それ、よかったらどうぞ。差し上げますよ」
「え?いや、そんな催促したつもりは・・・!」
「いや、そうではなくて・・・こう言ったら嫌がられるかもしれませんが、前にロフトに行ったときに偶然この鏡を見つけて・・・さんに似合うなって、思ったんです」
「・・・え」
「迷惑でなければ、使ってやって下さい。さんはとても可愛いので、必要ないかもしれませんが」
意外な展開に驚いて固まっていると、東条くんはなおも続けた。
「でも、きっとあなたは更に綺麗になれる。そのさんを見たいっていうのも、本音だったりするんです。私も男ですからね」
一方的に言い切ると、東条くんは去っていってしまった。いろんなことが同時に起きすぎて、私はしばらく、放心状態のまま、座っていることしか出来なかった。









もし、もし本当に私が綺麗になったら、彼はどうするだろうか









2008/04/27


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