1時間目の授業が始まる5分前に、いつも彼女は登校してくる。 おはようと笑顔で挨拶してくれるというクラスメイトに、俺は他の人とは違う、何か特別な感情を抱いているような気がする。実際毎朝俺はぶっきらぼうに返事をしているし、彼女の顔を見ることさえ、一瞬しか出来ないのだ。どうしてこんなに緊張するのだろうか。特別な感情ってさっき自分で言ったけど、それは一体、何なのだろうか。 エリザベスに相談してみると、彼は『それは恋だよ桂さん』と断言した。そうやって自分の考えを押し付けるの、よくないぞとたしなめようとした俺は、そのときはたと気づいた。そうか、これが恋だったのか。 納得してしまうと、俺はが気になって仕方なくなった。恋とはそういうものなのだろう?前何かで読んだぞ。何だっけな・・・ああ、そうだ。リーダーが貸してくれた少女漫画に書いてあった。アレは面白かったな。主人公のマサ子(40)の甘酸っぱいラブストーリーはときに涙するほど奥が深かった。俺も見習いたいものだ。 だがしかし、を見つめるようになってから、一つ、困ったことに気づいてしまった。 それは、彼女のスカート丈についてのことだ。 こうはっきり言うのもなんだが、彼女はスタイルがいい。だから制服がよく似合う。だが、問題はそのスカートの長さにある。短すぎるのだ。それ、スカートはいてるんですか?と問い詰めたくなるほど短いのだ。 他の女子もそうしているからアレが標準なのかもしれない。でも、がそれをすると卑猥なのだ。見てはいけないと思いつつも、ちらちらと視線を送ってしまうような艶やかさなのだ。 自制心をしっかりと持った俺でさえその始末だ。つまり、銀八先生のような理性が皆無に等しい人種は嘗め回すようにその肢体を見つめているに違いないのだ。こんな輩を野放しにしてはおけない。ちょっと爆弾仕掛けてくるか。 いや、待て。この場合諸悪の根源はと言ったほうが正しいのではないか?彼女が足を露出しているから見る。それが男の性であり、本能なのだから仕方が無いのではないか。となると、彼女と先生の教師人生を守るのは、それに気づいた俺しかいないということになる。 なんということだ!クラス内の風紀を取り締まるのは、無駄に3人もいる風紀委員の馬鹿共ではなく、この俺だったのか。今までそれに気づかず生活してきたことが本当に恥ずかしい。俺は馬鹿だった。マサ子も俺のことをあざ笑っているに違いない。 「迂闊だった・・・」 今からでも遅くは無い。いや、今こそが運命のときなのだ。俺は立ち上がり、に歩み寄って、こう言うのだ。『、君のスカートの丈は短すぎる。もっと長くしたほうがいい』 すると彼女はこう言うのだ。『どうしてあなたにそんなこと言われなくちゃならないの?』 すると俺は『答えは簡単だ。君の美しい脚を、他の奴らの前に晒したくない。それだけのことだ』 すると彼女は『え、桂くん・・・そんなに私のことを・・・!』 素晴らしいハッピーエンドじゃないか!よし、決定。今から俺はこれをやる。との夢のらぶらぶらいふへの一歩を踏み出すのだ。 俺は立ち上がって、の前へと足を進めた。正面で立ち止まると、不思議そうに彼女が俺を見上げた。 「、君のスカートの丈は短すぎる。もっと長くしたほうがいい」 「え、そうかな?そんなことないと思うけど」 「答えは簡単だ・・・・・・え?」 アレ、会話がかみ合ってない気がするぞ?どういうことだ?俺は台詞を間違えてなど・・・ ちらりとを見れば、彼女は訝しげな表情を浮かべていた。 「答えって、何の?」 「いや、あの・・・だから」 そうか、今分かった。俺はもっとパターンを用意した状態でここにやってくるべきだったんだな。彼女が俺の想像した通りに返答してくるだなんてありえないではないか。マサ子だってそこら辺は抜かりなく準備していたと言うのに・・・なんてザマだ。 がっくりと項垂れると、頭の先でが吹き出すのが聞こえた。 「・・・桂くん、変なの」 「え?」 頭を上げると、は笑っていた。一体何がおかしかったのだろう。 驚いている俺を尻目に立ち上がると、用事があると言って教室を出て行ってしまった。 その場に残された俺は、エリザベスに声をかけられるまで、ひたすら首を捻る羽目になった。 |