彼が歩いていると、すぐに分かる。勿論外見が目立つのもあるけど、それよりもシャカシャカ鳴ってる音で気づくことが多い。彼はいつも音楽を聞いていて、ものすごく音漏れしているのだ。 私は普段あまり音楽を聞かないから詳しくは知らないけど、友達が言うには、ヘッドホンって結構音漏れしやすいらしい。見た目は確かに可愛いんだけど、電車に乗るとき気になるんだよねと、口を揃えて言っていた。 その音を発している張本人は気にするかもしれないが、聞いている私はその音が結構好きだったりする。いや、別に河上くんが好きだから擁護しようとか、そういうわけじゃないんだけど。・・・あ、好きだっていうのは事実なんだけども。とにかく、そういうのを差し引いても、私はそのシャカシャカ鳴る音が嫌いじゃない。何の曲だか分からないから、この人はどんな曲を聞いてるのかなとか想像するのが楽しいのだ。 そして今も、隣に座る河上くんをちらちら見ながら、今日はどんな曲なのかな、なんて、考えてるわけだ。 「・・・・・・何か、用でござるか?」 「・・・・・・へ!?」 驚いて横を見ると、河上くんが怪訝そうにこちらを見ていた。気づかれて無いとばかり思っていたので、私の声は予想以上に裏返った。 「さっきからちらちらと視線を感じたのだが」 「あ、えっと・・・何聞いてるのかなーって、思って」 私が彼のヘッドホンを指差しながら言うと、彼はああと言っていつもの表情に戻った。 「今はお通殿のニューシングル、『お前の兄ちゃん引きこもり』を聞いているところだ」 「へえ・・・意外かも」 「そうか?今回のもロックな感じに仕上がっていてとてもいいぞ。特にこの低音が・・・」 「ご、ごめん!私あんまり音楽に詳しくないから・・・」 「そうでござるか」 河上くんはさほど気にもしなかったようで、また音楽の世界に逆戻りしてしまった。 ああ、折角話しかけてくれたのに・・・寺門通、マスターしとけばよかったな・・・。目を閉じて、がっくりと項垂れていると、シャカシャカ音が急に大きくなった。何事かと目を開けると、目の前にヘッドホンがあった。 「聞いてはみぬか?きっと気に入る」 「え、いいの?」 「ああ」 「あ、ありがと」 受け取ったヘッドホンを頭につける。さっきまで河上くんが使っていたものだと思うと、何だかドキドキする。聞こえてきた音楽は、私にはよく分からなかったけど、何となく好きだった。 「うん、いい曲かも」 「左様か。ならアルバムも聞いてみるといい。今度貸そう」 「本当に?やった」 アルバムを貸してもらえるのは本当に嬉しかったけど、でも何より接点が出来たことが嬉しかった。これからこうやって河上くんと喋れるようになるかもしれないって、そう考えるだけでニヤけてしまいそうだ。 「それにしてもさ、ヘッドホンって結構いいね。私も買おうかな」 「持っておらぬのか?」 「イヤホンならあるんだけど・・・ちょっとサイズが合わなくて」 「成程。・・・とは言ってもわざわざ買うのも面倒でござろう。それを使うといい」 河上くんは、今私がしているヘッドホンを指差した。 「・・・え、これくれるの?」 「迷惑か?」 「違うけど!え、だって河上くんはどうするの?」 「心配要らぬ。拙者は同じものをあと2つ持っているのでな」 |