息が、切れる。・・・無理も無い。こんなに全力疾走したのは久しぶりだ。近づいてきた目的地を見つめて、俺はただがむしゃらに、走った。 「す、すいません!遅れました!」 バン!とものすごい音をあげてドアを開けると、一斉に視線を感じた。目の前に立つ銀八先生が、だるそうに口を開く。 「なんだー長谷川。重役出勤ですかコノヤロー」 「違います!俺は・・・!」 弁解しようと教室に足を踏み入れたとき、俺はクラスメイトの視線の種類に気づいた。これは明らかに軽蔑の目だ。なんでお前遅れて来てんの?俺/私はちゃんと遅刻せずに来たのに。そんな不満の意がひしひしと伝わってくる。 理不尽だ。なんて理不尽なんだ。心が折れた俺は、黙って席に着いた。 俺は別に、寝坊して遅刻したわけじゃない。朝のバイト中にミスして、怒られてたから間に合わなかったのだ。コレだけ聞くと苦しい言い訳のようだが、違うんだ。俺は悪くないんだ。 最近始めたコンビニのバイトは、学校へ行く一時間前にはあがれるので遅刻の心配もないし、気に入っている。これから末永く続けていこうと決めた矢先のことだ。俺は卑劣なテロにあった。クラスメイトの神楽の奇襲だ。ヤツは酢昆布を中心に、店内の菓子類をまんべんなく平らげていった。驚いた店長が止めに入ると、ヤツは平然とこう言ったんだ。「長谷川くんが『どうせ大した商品じゃないから、食べちゃっていいよ』って言ったアル」 ・・・俺はそんなこと一言も言ってない。ていうかこんなこと言う人なんてどこにもいないでしょ。食べちゃっていいよなんて言う人いないでしょ。 俺は無実の罪を晴らそうと必死だった。プライドなんかかなぐり捨てて土下座だってした。勿論ちゃんとサングラスもとった。それなのに店長は信じてくれなかった。2時間に渡る説教をされた後に、今後一切この店に寄り付かないことを約束させられた。 これだけ辛いイベントを経て、ボロボロになりながらも学校にやってきた俺を、こんな風に扱うこの3Zの面々の態度はどうだ。奴らには血が通っているのか!と本気で疑うくらいだ。 俺は深くため息をついた。どーせ俺はマジでダメな男略してマダオだもんな。慰める価値も無い男だよな。・・・いやそういえば遅刻の理由言ってないんだっけ?でもまあいい。どうせ言ったってコイツら聞いてないし。 「・・・・・・あの、長谷川くん?」 隣から聞こえた可愛い声に、俺は耳を疑った。え、今、俺の名前呼んでくれたよね?隣からってことは・・・さんか!可愛いって有名な! ゆっくりと振り向くと、さんはにっこりと笑った。 「すごい汗。走ってきたんだ、お疲れ様。これ、よかったら使って?」 「・・・え?」 差し出された手を見れば、そこには可愛らしいハンカチがのっていた。俺に、貸してくれるのか? 「いいの?」 「もちろん」 「あ、ありがとな」 「いいえ」 もう一度さんを見ると、彼女はさっきよりも嬉しそうに笑ってくれた。俺の勘違いでなければ。 いい匂いのするハンカチを使いながら、俺はひたすら、ドキドキしていた。 |