ここで話題にしているのは、虫料理などの見た目がアレだが味は悪くないといった、まあ料理として認められているもののことではない。見た目だけでなく味もアレな食べ物も、この世にはあるのだ。 私も料理が得意なほうではない。むしろ苦手なほうだ。以前手作りのお菓子を学校に持っていったら、沖田くんに『鳥のエサ』だと言われた。お妙ちゃんには、年頃の女の子なんだから料理ぐらい出来ないと。と軽くたしなめられた。複雑な気分だった。周りで見ていた人達はきっともっと複雑だったに違いない(あの『かわいそうな玉子』はある意味殺人兵器だと有名だ) 「オイお前ら、そんなに文句ばっか言うんじゃねェよ。つーか俺、コレ好きなんだけど」 「マジですかィ土方さん」 「ホントに?ありがとーすごい嬉しい」 「、お前大事なこと忘れてるぜィ」 「え?」 ・・・複雑な気分だった。 というのも、彼が極度の味覚オンチだったことを思い出したからだ。 彼に認められたということは、このクッキーはマヨの味でもするのだろうか。いくらなんでも砂糖とマヨは間違えないよ。ホイップクリームならまだしも粉砂糖とマヨは間違えないよ。 ああ、これで。私は深くため息をついた。私もお妙ちゃんのこと言えなくなっちゃったな。なんせ鳥のエサだもんね。でもまあ土方くんがおいしいって言ってくれたから私はそれで・・・いや、ダメなんだった。それは一般的に見たら褒められてないんだった。 「あのさ土方くん、ホントにおいしいって思った?」 「お世辞だと思ってんのか?安心しろ、ホントに美味かった」 「・・・あ、そっか」 「何だお前元気ねェな。疲れてるならコレが一番だぞ。食え」 「へ?」 ゴトンという音がしたので驚いて机を見ると、そこには先ほど話題に出した『かわいそうな玉子』に引けを取らない最終兵器・土方スペシャルの姿があった。 「な、なんで!」 「なんでって、何がだよ」 「なんで、コレがここに・・・?」 「俺ァな、財布と煙草と土方スペシャルはいつも持ち歩くようにしてんだよ」 「その取り合わせってどうなの・・・」 「細かいことはいいんだよ。とりあえず食え」 「・・・・・・」 私は、目の前でテラテラと輝くマヨネーズを見つめた(マヨのかけすぎでカツが全く見えない)。 この無駄に美しいフォルムが、余計私を虚しくさせる。この技術をもっと他の事に活かせないのかな。ほら例えば・・・ソフトクリーム屋さんでバイトするとか。 ああ、ダメだ。意識が朦朧としてきた・・・食べても無いのに。もしかしてコレ、何か毒素とか放出してるんじゃなかろうか。人体に影響があるタイプの。そう疑りだすと、確認せずにはいられなくなった。それが失礼に当たることぐらい百も承知だったが、私の目にはコレがもう殺人兵器にしか見えなくなってたんだから仕方が無い。 「変な事聞くけど、これって、本当に食べ物なんだよね・・・?」 ・・・彼の反応は、予想通りだった。 「え、なにその言い方。え、もしかしてお前マヨナメてる?」 「いや、ナメてないけど・・・」 言っちゃえば舐めたくもありません。ていうか食べたくありません。この一言をはっきりと言えるだけの勇気を、一瞬でいいから沖田くんに分けてもらいたかった。 何も出来ずただ俯いている私を見て、土方くんは怪訝そうな顔をした。 「ん、どうした?」 「いや・・・その・・・」 「・・・あ、もしかしてマヨが足りねェのか?ちょっと待ってろ今かけてやる」 ごそごそと鞄をあさり始めた土方くんを見て、私は自分の血の気が引いていくのが分かった。何事にも適量ってのがあるでしょう土方くん。まあ、もうその上限を軽く超えてるからこんな話したって全く無意味なんだけども。 「いや!いやもう十分です!・・・い、いただきます」 「おう、遠慮せず食え」 |