職権乱用という言葉を、ここ数日よく聞くようになった。 実際、我が銀魂高校は職権を乱用することが教師の特権であるかのような概念が蔓延っている。そんな状況を打破すべく、一部の生徒たちの間で、この言葉はまるで流行語のように頻発されている。 私はその一部の生徒ではない。勿論、職権乱用を認めたわけでもない。この行為はある意味一種のパワハラなんじゃないかとも思うし、これが黙認されてる状況ってどうよ?と疑問に思うこともしばしば。 でも、話を聞いていると、銀八先生が生徒にアイスのお使いを頼んだとか、松平先生が生徒に娘の警護を頼んだとか、理事長が銀八先生にタバコを買いに行かせたとか、そんな可愛らしいものがほとんどなのである。 だったらまあ、いいか。と、専ら平和主義者な私は思うのである。 ある日のことだ。私が用事を終えて職員室から出てくると、そこでばったり日本史の服部先生と鉢合わせした。 この先生の授業は、銀魂高校では珍しく、結構分かりやすい。私が日本史受験を決めたのも、この人のお陰だ。 「先生、こんにちわ」 「ん、か。なんだ、呼び出しか?」 「いえ、プリントを届けに。それじゃ」 「おう・・・あ、ちょっと待て」 「はい?」 数歩進んだところで呼び止められたので、私は振り向いた。服部先生は財布を探っている。何かと思って見ていると、その中から四千円取って、私に渡した。 「悪ィんだけど、ボラギノール買ってきてくんね?釣はお駄賃としてやるから」 ・・・しばらく、返事が出来なかった。ぽかんと口を開けて突っ立っていると、今まで一度も見たことが無い、服部先生の目が光ったような気がした。まるで、『断ったら成績下げる』とでも言いたげな威圧感だった。 お金を受け取って歩き出すと、ふつふつと怒りがこみ上げてきた。職権乱用がどうとかじゃない。普通女の子に座薬とか買いに行かせないだろう。恥ずかしくないのかな、こういうの。 私だって出来るなら断りたかった。でも、仮にも受験生だ。成績を細工されるのは非常に困る。買いに行くのはすごく面倒だし恥ずかしいけど、お駄賃ありでもしかしたら成績アップも望めるかもしれないこの状況を、この際ラッキーだと思うしかないだろう。 「一番近い薬局ってどこだったかなー」 * 「お、早かったな。助かった」 「・・・いえ。それじゃ、私はこれで」 「すまんな。また頼むわ」 「・・・・・・」 また頼まれても困るので、私は返事もせずにその場をそそくさと離れた。それに、後ろめたいこともあったし。 「成績下がったろうなー・・・あーあ」 もうすぐ先生は、やけに箱が軽いことに気づくだろう。中を開けてびっくり!・・・いや、ガッカリか。そんなリアクションをとって、皆に変な目で見られるに違いない。ふん、自業自得だっつーの。 「なーにが釣りはお駄賃だよ。3998円の釣りっていくらだと思ってんのよ」 遠くで服部先生の叫び声が聞こえた気がする。そりゃそうだよね。新品のはずなのに、中身空なんだもん。 「そういうのは、自分で買いに行って下さい」 |