「で、でも!」

 言いながらも、ちょっとラッキーかも、なんて思ってしまった。実を言うと今月ピンチだったんだよね。
 そんな私の気持ちに気づいたのか、先生はふっと笑った。

「わしが払いたいんだから、問題ないぜよ」



   うん、うまい」
「はい。生き返りますねー」

 隣に座った先生に相槌をうつ。やっぱり夏のアイスはいいなあと、舌でシャーベットのかたまりを転がしながら思った。

 ここは、コンビニの近くの公園。会計を済ますと同時に、先生がずんずん歩きだしてしまい、慌てて追いかけた結果、今に至るのだ。どうやら先生は、アイスを一緒に食べたかったみたいだ。

「でも先生、こんなとこでゆっくりしてていいんですか?お仕事中じゃ・・・」
「ん?今日は休みじゃー」
「え、だってスーツ」
「あー、服が無くてのー」

 先生は笑った。先生らしい理由だと、私も笑った。

「やっぱり買いにきてよかったなあ」
「ん?」
「・・・あ、いえ!」

 つい口に出してしまっていたようだ。私は焦ってごまかしたが、先生は意味ありげににやにやしている。

「なんですか!」
は、なんでよかったと思ったかのー?」
「そんなの、アイスが好きだからに決まってます!」
「そっかそっか、アッハッハ」

 先生は、すっかり小さくなったシャーベットを口に入れた。先生って、意外に食べるのはやいんだ。新たな一面を知れたことが嬉しくて、それを嬉しいと思ったことがなんだか恥ずかしくて、私はうつむいた。だめだ、先生の顔が見れない。

ー?」
「な、なんでもないです」
「お、そうか」

 んじゃ、と言いながら、先生は立ち上がった。もう帰ってしまうようだ。

「せ、先生っ!」

 私は勢いよく顔をあげた。なぜだか、帰らないでほしいと思ってしまったのだ。数学の先生と、生徒。ただそれだけの関係でしかないのに、私はこの数十分で先生のことがずっと好きになってしまったようだ。それが恋なのかは、まだ分からないけど。

「どうした?」
「あ、あの、もう行っちゃうんですか?」

 おそるおそる、といった感じの私の問いかけに、先生は優しく笑った。そして大きな手をぽんと私の頭にのせると、そのままよしよしとなでてくれた。

「すまんな、もう行くぜよ」
「そ、そうですか・・・そうですよね」
「なんじゃー、寂しそうに」

 先生は手を止めると、しゃがんで私と目線を合わせてくれた。そしてにっこりと笑う。

「・・・わしも一応先生やき、もう帰らないといかんぜよ」

 そういうと、先生はそのまま去っていってしまった。そういうもんなのか、と、私はよく分からないけど納得することにした。歩きながら、また火曜なー、なんて叫んでいる。いつも通りの先生すぎて、なんだか笑えてしまった。
 先生の後ろ姿を見送りながら私は、火曜日はどんな挨拶をしようか、なんて考えていた。








RICOPRA


--- 坂本HAPPYEND



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