ガキ、という言葉が、何故だか私の胸にぐさりときた。そんなこと教室ではいつも言われてるし、先生よりずっと子供だっていうのも自覚してる。それでも今は、その言葉がすごく冷たいもののように感じられた。

「・・・?」

 返事がないのを不審に思ったのか、先生は怪訝な表情で私を見た。そりゃそうだ。先生からしたら、いつものセリフをいつもの調子で言っただけなんだから。

「・・・なんでもない!ガキは早く寝るねー」

 笑顔を浮かべてそう言うと、私は窓を閉めようとした。夜だからかな、なんとなく切なくて、もしかしたら泣いちゃうかもしれないって思ったから。どうしてなのかはよく分からないけど。

    さっき心臓がどきんってなってから、私、なんか変だ。

「ちょ、やっぱタンマ」

 いつの間にかうつむいてしまっていた顔を上げると、先生が右手を挙げて私を制していた。半分まで閉めてしまっていた窓をもう一度全開にすると、私はなんですかと先生に問いかけた。

「いや、その、アレだ」
「なに?」
「・・・はさみうち作戦つーのも悪くねーかと思ってな」

 言い終わると、先生は頭をぼりぼりかいた。私は嬉しくなって、ホントに!?と声をあげてしまった。うるせーうるせーなんて言ってうつむく先生が、なんだか可愛い。

「・・・待ってて!今行く」

 早く、先生のところに行きたい。そう思った私の足は、自然と走り出していた。
 相変わらず、心臓の音はどきんどきんとうるさい。どうしちゃったんだ、ホントに。



   お待たせ、先生」
「おー。・・・ん?お前風呂上がり?」
「え、何で分かったの?まだ髪濡れてるかな」
「あー・・・まあな・・・」
「先生どしたの?なんか変」

 先生の前に回り込んで覗きこむと、先生はびっくりしたのか、軽く声をあげて後ずさった。へえ、先生って怖がりなんだ。新しい一面がまた見れて、私は嬉しくなった。

「大丈夫だよ先生、お化けも屁怒絽くんも出ないよ」
「ばっ、そういうことじゃ・・・あー・・・」

 先生は深く深くため息をついた。そんなに怖かったのかな?悪いことしちゃったな、と反省していると、ぽんと頭に先生の手がのせられた。びっくりしちゃって、声が上ずる。

「せ、せんせ?」

 頭を動かせないから、目だけで先生を見る。暗くてよく分かんなかったけど、街灯のぼんやりとした灯りごしに見た先生の顔は、赤く染まっているように見えた。

「・・・びっくりするから、上目遣いとかやめてくんね?」
「そ、そんなのしてないよ!」
「あーそうですか」

 先生は私の頭をわしゃわしゃすると、先に歩き出してしまった。
 私も慌てて後を追ったけど、もう頭の上にはないはずの先生の手の感触がずっと頭に残っていて、なんだか変な気分だった。








RICOPRA


--- 銀八HAPPYEND



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