誤解があると不愉快だから言っておくが、別に俺はヅラとか長谷川さんがいなくて寂しくてついてない、と言っているわけじゃない。モテないからってそっちに走ろうとか、そういう後ろ向きな考えは持ってないからね。最近ツケがきかなくなってきたから、友人でも連れて行ってあわよくばご馳走になっちゃおうかな、とかそういうアレだ。ヅラは何だかんだで金持ってるし、長谷川さんはそろそろ給料日だしな。そう思って誘ってみたのにどっちも「女房がアレで・・・」とかわけわかんねー断り方しやがって・・・。長谷川さんはまだしもヅラは何なんだよ。オメーが女房だと思ってる女はきっと他の人の女房だよ。あるいはテレビの中の人とか。もしくは鏡に映った自分だったりしてな。だってあいつ髪長いし。バカだし。 イラっとしてきたので考えるのをやめるが、ともかくそういう理由で俺は一人で歩いているのだ。 「いらっしゃいませー」 「団子二本と茶。サービスは歓迎すんぜ」 「仕方ないね、お代は三本分で勘弁してあげるよ」 「なんで高くなってんだよ」 どいつもこいつもバカにしやがって。俺は空いていた長椅子にどかっと腰かけた。そんなのツケの分にきまってんだろ、と看板娘が遠くで言っているのが聞こえた。俺はここの常連だが、いまだにこの娘を息子じゃないかと疑っている。 「ヅラを真選組に連れてきゃいくらか金くれんだろ。それで払っといて」 「ヅラってなんだい!私は地毛よ」 「いや、だから・・・ま、いーや」 何だか面倒になった俺は、看板娘が持ってきた皿から団子を一本取って、口に入れた。相変わらずここの団子はうめーが、今日はついてねぇ。これ食ったらさっさと帰ろう。そう思って二本目を掴んだ。 「 「あ、どうぞどうぞ。俺もうすぐ・・・」 行くんで、と言葉を続けようと思ったが、声が出なかった。顔を上げた先にいたのが、びっくりするほど可愛い人だったのだ。しかも普通にしてても十分可愛いのに、小首を傾げるもんだからたちが悪い。オイ、志村姉。可憐ってのはこういう人のことを言うんだぞ。 二本目の団子をうっかり落とさなかった俺はえらいと、心底思った。 「・・・あ、もしかして万事屋さんじゃないですか?」 「そ、そうですけど」 「ちょうどよかった!お仕事をお願いしたいと思ってたんです。お時間、よろしいですか?」 「も、勿論!何時まででもお付き合いしますよ。何なら・・・夜まででも」 よかったー、と、名前も聞いていない彼女は笑った。俺の口説き文句を完全にスルーしたあたりは予想外だったが、それにしても夢のような展開だな、オイ。俺は名刺を渡しながら、まじまじと彼女を見た。・・・やべーって、結野アナより数倍可愛いもんこの人。 俺はごくん、と唾を飲み込んだ。・・・つもりだったが、口の中には団子があった。かっこ悪いと思いつつも、生理現象は避けられないんだから仕方が無い。ゲホゲホとむせていると、そっと背中に手が触れる感じがした。 「大丈夫ですか?はい、お茶」 |