「 「・・・アンタの一生のお願いって何回あるの?利央」 ふうとため息をついて利央を見ると、ふてくされたようにコーラを啜っている。喫茶店にコーラってあるんだな、なんて変なところに感心してしまった。私もコーラは好きだけど、喫茶店で注文しようと思ったことは一度もない。 「だってこうでも言わないと、さんOKしてくれないでしょ」 「そう言われたら逆にOKしないって」 「じゃあどう言ったらいいんスか」 「どう言われてもダメだけど」 「えー」 利央はテーブルに突っ伏した。だってしょうがないじゃん、と声をかけてみるけど、返事が無い。じゃあ何か、この子は私がいいよって言えば満足なのか。気持ちも無いのに。 「大体どうしてそんなに私と付き合いたいの」 「好きになるのに理由とかないよ」 「お、ちょっとかっこいい言い方だ」 「ばあちゃんが言ってた」 あのネックレスの人か、と見たこともないのに思い浮かべてみる。利央みたいに金髪くるくるなのかな。だとしたらすっごく可愛い。 今の会話で分かるように、私は利央に口説かれているのだ。今日で5回目くらいだろうか(だから私は、利央の一生のお願いを5回も聞いているということになる)。何で突然、とか、どうして、と聞いてみても、さっきのようにはぐらかされてしまってちっとも本心が分からない。もしかしたら準太とかが面白がってけしかけてるのかもしれないから、私もこうやってダメの一点張りを貫いているのである。ホント、どういうつもりなんだろ。 「とにかくね、利央。私はアンタとは付き合えないの」 「どうして?和サンとか準サンが好きだから?それとも俺がガキだから?」 利央が起き上がった。目の前にいるのは2つも年下の後輩なのに、何だか圧倒されそうで、目をそらす。呂佳さんとは全然違うんだけど、迫力はあんまり変わらないかもしれない。純粋な子って、こういうときずるいよ。 「俺はずっと前からサンが好きだし、これからもそれは変わんねェ。ただサンはもうすぐマネジ引退しちゃうから、会えなくなるのはイヤだと思ってこうやって告白してんじゃないスか。それなのに付き合えない付き合えないって・・・理由聞かないと納得出来ないっスよ」 そこまで言うと、利央はまた同じ体勢に戻った。私は驚いて、全く動けなかった。ふざけてるんでも、和や準太のせいでもなかった。利央はいつでも、本気で話をしてくれてたんだ。それなのに・・・。私は自分の最近の態度を思い出して、頭を抱えたくなった。 何で冗談なんかだと思ったんだろう。利央はいつでも、誰に対しても正直な子だったのに。 「利央、ごめん」 「何がっスか」 「本気だと思ってなかったの」 「サン、にぶすぎでしょ」 利央が唇を尖らせる。私はもうひたすら謝るしかなかった。 「うん、ごめん」 なーんだ、とか言いながら、利央は背もたれに寄りかかった。心なしか嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか。私も何だか緊張がほぐれたので、同じように背もたれに体を預けた。 「それで、今は?」 「ん?」 利央の質問の意味が分からなくて聞き返すと、利央は前に乗り出してきた。 「本気だって分かったんスよね?じゃ、今の返事は?」 「そうねー」 ちらりと利央を見てみる。かっこよくて可愛い、大好きな後輩だ。でも私にとっては、まだ『後輩』でしかない。 「・・・とりあえず、お友達から、かな」 まずは対等になること。好きになるには、そこをクリアしなくちゃ。 |